2019年5月26日(日)、札幌コンベンションセンターで開催された北海道大学・道民カレッジ連携公開講座に参加してきました!
国内外の研究者が結集する国際会議(ISCAS 2019)に合わせた内容となる本講座のテーマは「人工知能とビッグデータ」。
北海道大学大学院情報科学研究院・宮永喜一教授を総合司会に迎え、北海道大学の浅井教授と吉岡教授、大阪大学の尾上孝雄教授、そしてシドニー工科大学からはるばるやって来たエリック・デュトキエヴィッチ(Eryk Dutkiewicz)教授の四名による知的で刺激的な講義を聴くことができました。
今回は、本講座の一部をダイジェストでレポートして、筆者の所見などを述べさせていただきたいと思います。
取材・撮影:石山広尚 取材日 : 2019年5月26日
(1)「人工知能チップによる未来社会」――浅井哲也 教授(北海道大学大学院情報科学研究院)
人工知能に30年来携わる浅井教授は、今日の人工知能研究が「第三次ブーム」の真っただ中にあると言います。それは2012年頃に到来し、急激に盛り上がりをみせてきました。
これまであまり日の目を見てこなかった人工知能に関する研究は、「画像認識」が実用的な水準にまで飛躍的な上昇を遂げることで、2012年以降、さまざまな人工知能の応用技術が誕生し、現在に至ります。
こうした人工知能研究の様相を、いまここに、5段階の流れを汲むものとして整理してみましょう。
①人工知能の画像認識精度が飛躍的に向上(2012~14)
②人工知能の画像認識時間(=計算能力)が大幅に短縮化(2015~2016)
③人工知能システムの低電力化競争&スマートフォンへの搭載(2016~)
④人工知能技術のオープンソース化&一般家庭への普及(2016~2017)
⑤人工知能がみずから画像を“つくりだす”時代(~現在)
こうした2010年代以降の人工知能研究の流れを紐解いていくと、興味深いことがわかってきます。時代を追うごとに、人工知能に対する関心が、「開発」から「応用」へとアクセントが変化しているのです。この「応用」を促す一因は、やはりなんといっても「人工技術のオープンソース化」に見出されるでしょう。
従来、人工知能は、研究者プロパーの領域として捉えられていましたが、現在では、人工知能技術がオープンになり、それを手にしたわたしたち自身が「それをどう使うのか」という発想ひとつで、どのようにも可能性が広がる時代なのです。
人工知能の世界がまだまだ未知数なのは、わたしたちの想像力が未知数であるからなのかもしれません。しかし、人工知能の「開発」も、今後さらなる発展を大いに期待されています。
これまで人工知能研究は、ふたつの学派に二分されてきました。ひとつは、抽象度の高い視点でアプローチする「工学派」。またもうひとつは、細かなデータを重視する「理学派」です。
従来、このふたつの学派には、人工知能研究のスタンスに共有できない部分がありましたが、現在では、両者が積極的に知的な交流を重ね、「サイバネティック人工知能」という新たな人工知能の地平を開拓したのです。
それがまさに、演題のタイトルにもなっている「人工知能チップ」のことなのです。これは、マウスの脳にチップを埋め込み、脳の機能を強化しようという研究です。
人工知能の「開発」と「応用」は、わたしたちの未来社会の可能性をさらに押し拡げていくものとなっていくでしょう。
※本講座は写真掲載不可のため、文章のみでご了承ください
(2)「ビッグデータ解析による未来社会」――吉岡真治 教授(北海道大学大学院情報科学研究院/GI-CoRE GSB 副拠点長)
「スマートスピーカー」とは、すでに知られているように、AI(人工知能)を搭載した新時代の高機能スピーカーです。「スマートスピーカー」は人間の発話に応答し、検索した情報を提供することができるわけですが、それではどういった仕組みで、そのような機能を備えているのでしょうか?
吉岡教授は、その疑問を切り口にしながら「ビッグデータ」との関わりをふまえて講義をしてくれました。この講義でのポイントは、人間が求める情報に対して、情報検索AIがどのようなプロセスで回答を選択するのかということです。
かつての「情報検索」では、ユーザー側が調べたい情報の内容を「具体的」にする必要がありましたが、Google登場以降の現在では、漠然としたキーワードだけで、欲しい情報がヒットするようになりました。
どうして曖昧なキーワードだけで、欲しい情報を検索できるようになったのか?
それは、今日の情報検索システムが、
①ユーザーの「位置情報」
②「他の人がテキストをどのように参照しているか(アンカーテキスト)」③「役立つページかどうか(リンク構造解析)」
といった諸観点に基づき、昔よりもずっと厚みをもって「情報」を取り扱うことができるようになったからです。
つまり、情報データ解析の進展した今日では、検索システム側が、「ユーザーが求めているであろう情報」を“他のユーザー”を参照しながら予測できるようになったのです。
このように、これまでは単なる情報の受け手であったユーザーの行動を利用することが、Webの情報をより有効に活用できるということが理解され始めました。
情報が利用可能になったこうしたWebの状況を、これまでの発信者中心のWebから質的な変化をしてバージョンアップと捉え、「Web2.0」という概念が提唱されるに至りました。
「Web2.0」はユーザーの「情報検索」や「検索結果」それ自体も、ひとつの情報として扱うことを意味します。つまり、ユーザーの「情報へのアクセス」は、同時に「情報の発信」と同義になるのです。
なにとはなしに検索エンジンを使うたび、わたしたちは計らずも「ユーザー参加型動的更新メディア」の秩序を構築していることになるわけです。このように、今日の情報検索システムは、ユーザー全員の行動を「ビッグデータ」として利用しています。
ユーザーの参照しているデータを検索情報として扱う――これは素晴らしい仕組みですが、じつは同時に弱点もありました。多数の無意味なウェブサイトを立ち上げ、いたずらにページリンクへのアクセスを水増しさせることで、有益かどうかの疑わしい紐づけ情報や検索ワードがウェブ上にあふれてしてしまうのです。
また、他にも問題があります。たとえば、情報検索システムがユーザーの多数派(検索上位ランクページ)に最適化する仕組みは、たしかに部分的に考えると合理的かもしれません。
しかし、ユーザーの欲している情報が、必ずしも「多数派の求めている情報と同じ」であるわけではありません。今日の情報検索システムは、多数派優先なので、「少数派」の人々の欲する情報を提供することが困難になってしまう問題がつねに内在しています。
そしてそれに付随して、「自分の見たい情報」しか見なくなる「フィルター・バブル」の問題も生じてしまうのです。
吉岡教授は、以上のように、「Web1.0」時代から「Web2.0」時代の今昔をふまえつつ、情報検索システムの今日的意義と、今後の課題についてお話をしてくれました。
(3)「IoTネットワークによる未来社会」――エリック・デュトキエヴィッチ(Eryk Dutkiewicz)教授(シドニー工科大学/GI-CoRE GSB PI/通訳:宮永喜一教授)
公開講座に駆けつけてくれたエリック教授は、オーストラリアのシドニー工科大学で「IoTネットワーク」を実践的に取り組んでいる研究者です。
「IoTネットワーク」とは、コンピュータ同士だけでなく、ヒト・モノ・動植物・ロボットをインターネットでひとつなぎにする包括的な相互作用を意味する言葉です。これを一般的に「IoT (Internet of Things)」と呼んでいます。
じつは今日では、この「IoT」技術は世の中のいたるところですでに実用されている技術です。エリック教授は、そんな「IoT」技術が社会にどんな影響を与えているかについて、実際の応用例を示しながら講義してくれました。
たとえば「ロボット」をインターネットで「ヒト」と接続して個人の健康管理をさせれば、ヘルスケアやリハビリの新しい在り方を見出すことができます。
また、生身の人間では狭すぎて立ち入れない巨大な橋の内部点検も、IoT化の施されたロボットに任せて、画像や動画データをインターネットで集約することができるようになります。橋の点検を行うロボット(Climbing Robot)は、実際に使われているIoT技術です。
しかし、IoT技術の応用は「ロボット」と「ヒト」だけではありません。たとえば、農畜産品の生産・出荷・消費までの道のりを追跡するIoT技術も、実際に存在する例としてよく知られています。
このようにIoT技術は、生産から最終消費段階までの過程を追うことで生産物の信頼性を高める「トレーサビリティ」に多大な貢献をしています。つまりこのケースでは、「生産物」と「ヒト」とをネットワークでつないでいることになります。
そしてまた、エリック教授の所属するシドニー工科大学の建物も、まさにIoT技術をふんだんに応用した建物です。これをエリック教授は「スマートビルディング」と呼んでいます。
大学の建物には3000を超えるセンサーが備え付けられており、気温の記録や大学を出入りする人の動きを捉え、インターネットを介してリアルタイムで情報を送り続けます。
また、よく陽の当たる大学の屋上には太陽光パネルを設置しており、太陽光エネルギーを施設の電力として利用するIoTシステムも実装しているとのことです。
このようにIoT技術は、すでに社会に実用されている例が数多く存在し、現在開発中の新たな応用技術もすぐに実装されていくだろうとエリック教授は力説します。
講座の最後に教授は、IoTネットワークの技術を社会に応用していくには、「シンプル」「友好性」「安心」「安全」「安価」であることが条件だと会場の聴講者にメッセージを残してくれました。
おわりに
筆者はこの講座を通じて、「人工知能」や「ビッグデータ」の未来は、これらの技術を駆使するわたしたち人間の想像力次第なのだということに改めて気づかされました。
今後ますます発展が期待される人工知能技術。札幌コンベンションセンターで催された今回の「北海道大学・道民カレッジ連携公開講座」は、少ない持ち時間でありながらも、四名の研究者がわかりやすく、それでいて知的な好奇心をくすぐる素晴らしいお話をしてくださいました。
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