2019年10月16日から20日までの5日間にわたり札幌市内で開催されたクリエイティブコンベンション、NoMaps2019。私、キタゴエライターの早川はメインイベントの1つであるビジネスカンファレンスを取材してきました。
本記事ではビジネスカンファレンスの中から「養殖がヒントに。データ・ドリブンで社会課題解決を」のセッション内容をレポートします。
2017年から稚内市で始まったIoTとAIを活用したサクラマスの陸上養殖の実証実験。本セッションでは日本の養殖の課題について、そして日本オラクル株式会社がどのような手法で養殖の課題に取り組んだのかが語られました。
日本オラクルのデジタルトランスフォーメーション戦略4つの軸
最初に登壇したのは日本オラクル株式会社の七尾健太郎さん。本題である陸上養殖の実証実験の話の前に、今年6月に発足したと言う日本オラクル株式会社のDigital Transformation推進室がどのようなことを大事にしている組織なのかの説明がありました。
大事にしていることは大きく
- エンタープライズ
- 社会課題解決
- 共創・協業
- Emerging Technology
の4つ。日本オラクル株式会社の持っているAIなどの技術を企業や地域、個人などに提供するだけでなく、一緒に新しいもの、必要なものを作っていき社会課題の解決につなげていくといったことを大事にしているそうです。
日本の養殖産業の課題
つづいて登壇されたのは北海道立総合研究機構(以下:道総研)の三坂尚行さん。三坂さんからは日本の漁業、中でも養殖の問題についてお話しがありました。
右肩下がりの日本の漁獲量
おそらく多くの人が一度は聞いたことがあるであろう日本近海で魚が取れなくなってきているという問題。推移としては1990年ごろをピークに右肩下がりに漁獲量が減少しています。
しかし私たちが普段の生活で漁獲量の減少を実感することはないように思います。スーパーに行っても魚は普通に売っていますし、100円すしは今日も100円です。
ですがそれは多くの人が知っているように魚の多くを輸入に頼っている状態だからです。
魚の輸入が増えてきているのは日本だけではなく上のグラフのように世界各国で魚の需要が年々高まっています。同時にその需要を満たすために養殖の生産も伸びてきており、2013年には世界の養殖生産が天然の漁獲量を追い越しました。
輸入で維持できるなら特に問題ないと感じるかもしれませんが、大きな問題があります。
世界中で魚の需要が伸びているので当然、魚の価格も上がっていっているのです。以前の日本は魚の輸入でプライスリーダーでしたが、今では買い負け状態が続いているそうです。
このような経緯があって将来的に
- 日本近海で魚がとれない
- 輸入もなかなかできない
という状態になってしまう可能性が危惧されています。それを防ぐためにも養殖に注力していく必要があるのです。
改善している養殖のイメージ
とはいえ、養殖と聞くと薬漬けにしているなどの良くないイメージを持つ人もいるでしょう。しかしそのような点も少しずつ改善してきています。
薬事法が規制されたり、エサが改良されたり、完全養殖の近大マグロが話題になったりで、今では7割以上の人が昔と比べて養殖のイメージが上がっていると意識調査では答えているとのこと。
漁業法も改正されたことで企業が参入しやすくなり、今ではいろいろな魚が養殖されています。養殖なしでは日本の漁業は成り立たなくなっているほどです。
ところが、このように養殖業は進められて行っていても、初めにお伝えしているように日本の漁獲量は右肩下がりなのです。
どうして日本の養殖はうまくいっていないのか
日本の養殖業は厳しい状態が続いています。低迷している理由としては
- 海外産の安いサーモンとの競合に勝てない
- 水温の問題からノルウェーやチリのような周年養殖ができない
- ノルウェーのように国家プロジェクト的に育種に力を入れてることができていない
- 海外のような大規模化、自動化が進んでいない
という点が挙げられます。
中でも大規模化、自動化できていないことは海外との大きな差です。大きないけすで、給餌作業を自動化してコストを抑えている海外に対して、日本は小さないけすで手作業。そうなるとやはりコスト面で対抗することができません。
もちろん日本でも魚の測定を画像解析で自動化するなどの取り組みはあるそうですが、まだまだ発展途上であるとのこと。
人口が減っていく中で手作業を続けていくのは厳しいところがあります。だからこそもう少し機械化や自動化が進まないといけません。
養殖業の軽量化や少量化やコストダウンを兼ねた大規模化、自動化を進めるためにはAIやIoTの導入が今後不可欠になってくるでしょう。
最後に三坂さんは誤解を招かないように水産試験場としては「『養殖ありき』で考えているわけではなく、1つの手段として養殖を考えるべき」というところをお話しされていました。
どうやって課題解決をしていくのか
最後に登壇したのは七尾さんと同じ日本オラクル株式会社の横山慎一郎さん。横山さんは先ほど三坂さんがお話したような養殖の課題に取り組み、どのような技術で何を解決できたかなどをお話しされました。
稚内市で食品事業を展開する株式会社カタクラフーズと道総研によるサクラマスの陸上養殖実証実験。日本オラクル株式会社はこの実証実験にAIやIoTの技術を提供するという形で参画しました。
なぜ稚内という土地で、数ある魚の中からサクラマスの陸上養殖をすることになったのでしょうか。答えはサクラマスの性質や稚内の土地柄が持つ優位性にありました。
稚内市でサクラマスの養殖を選んだ理由
稚内市が養殖に適している理由は3つあります。それは
- 海水温が低い
- ホタテの未利用資源を活用することでコスト削減になる
- 風が強い土地柄を生かした風量発電が活用できる可能性がある
からです。
特に養殖するうえで海水温はかなり重要なポイントとのこと。海水温が高い場所での養殖となれば、一時的に海水温を下げる作業が必要になりますが、稚内市は海水温が20度を超える日が数日しかなく、1年を通して陸上養殖ができる可能性を秘めています。
また株式会社カタクラフーズがもつホタテの未利用資源を飼料とすることで、高騰している養殖飼料のコストを抑えられることも養殖するうえで重要です。
次になぜ養殖する魚にサクラマスを選んだのでしょうか。なんでもサクラマスは繊細な性格で養殖することが難しい魚とされているとか。
しかし、だからこそサクラマスで養殖が成功すれば他の魚での成功率も高いと言えるでということでサクラマスを選んだそうです。
人手不足の課題に取り組む
ここからは具体的にどのようにして陸上養殖の課題に取り組んだのかというお話に。
「陸上養殖の課題を解決する」と一口に言っても課題はいくつかあります。できることから1つ1つ解決していくことが大切と話す横山さん。まず行ったのは人手不足の課題についてでした。
陸上養殖は常に人の目が必要です。いけすを目で見て、エアレーションの気泡の量や、注水される水の量などをチェックしておかなければ魚が死んでしまう可能性があるからです。
しかし、それで人件費が高くなってはせっかく陸上養殖もあまり意味がありません。
そこで、「いけすの監視に人が必要」という部分にAIとIoTの技術を導入しました。具体的にはいけすの上にカメラを設置してエアレーションや注水装置を監視するというもの。
ただ映像を記録するだけでなく、撮影した動画・画像から異常時と正常時のいけすの様子をそれぞれAIに機械学習させていきます。
機械学習を行うことでAIがパターンを認識できるようになり、今が異常時なのか正常時なのかの判断を可能にしました。異常時には職員にアラートのメールを送る仕組みです。
具体的な異常時と正常時の学習方法については撮影したカラー画像をグレースケールにして泡や空気の量を際立たせ、数値化することで行っているそうです。
アプリケーションの使いやすさにも配慮していて、それは設計する上で重要視したポイントの1つとのこと。
IT技術を導入するとなるとプログラムを書いたり専門的なスキルをつけたりしないといけないなどのハードルがあります。そのハードルをなくすために、できるだけ簡単に使えるようにアプリケーションになっているそうです。
このようにAIとIoTでいけすを監視するシステムを導入したことで、常時リアルタイムでいけすの様子が確認できるようになりました。異常時にはアラートが届くので、安心して休めるようになったと利用者の声も届いているそうです。
課題解決するうえで大切なこと
登壇の最後に横山さんが課題解決するうえで大切なことをお話しされていました。
それはエンジニアであろうとアナリストであろうと課題に取り組むのならお客さんの業務をしっかりと理解することが重要なのだということ。
そのステップを抜かしていきなり課題を解決しようとすると、どれだけデータを綺麗にして分析して評価してシステム化しても、最終的には現実離れした的外れな提案になってしまいます。
課題解決に限らずですが、業務をこなす上でこのような姿勢はとても大切だと感じました。
今回の実証実験でサクラマスの陸上養殖における人手不足の問題が少し解決したように、今後あらゆる社会課題がAIやIoTなどのテクノロジーによって解決されることを期待します。
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