2018年3月28日(水)、「小学校プログラミング教育を考える夕べ@札幌」が開催されました。
プログラミング教育は、2020年度から小学校での必修化が決まり、民間企業がワークショップを開催するなど、関心が集まっています。
さくらインターネット株式会社では、2017年6月より石狩市の全小学校において出前授業を実施してきました。今回のイベントでは、これまでの活動やこれからの展望、巷で展開されているプログラミング教育の議論についてなどもお話がありました!
取材・撮影:広中裕士・高橋アメリ 構成 :高橋アメリ 取材日: 2018年3月28日(水)
会場について
サッポロファクトリー内にある、株式会社インフィニットループの会議室で行われました!
入り口には、今回のイベントのタイトルが描かれた、昔懐かしいお絵かきボードが設置されていました!
教師などの教育関係者以外にも、地域コミュニティに携わっている方など、40名ほどが集まりました!
第一部 プログラミング教育とコミュニティの役割
第一部は、2020年度から始まる、小学校でのプログラミング教育とコミュニティの役割、そして石狩市での取り組みについて、さくらインターネット株式会社・「石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト」プロデューサーの前佛雅人(ぜんぶつ まさひと)氏より、紹介がありました!
プログラミング教育とは何か?
前佛:2020年度(平成30年)より、小学校でのプログラミング教育が必須となります。プログラミング教育と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持たれますか?
中には、「プログラミング教育はプログラミング言語について学ぶのでは」という印象を持たれる方も多いかもしれません。
しかし、「プログラミング教育」と一口に言っても、「プログラミング言語」以外にも、「計算機科学」「授業での活用」「情報リテラシー」の4つに分けることができます。そのため、プログラミング教育に対して抱くイメージに違いが生まれ、議論になりやすいともいえます。
小学校でプログラミング教育を学ぶ目的としては、「計算機科学」と呼ばれる、コンピューターの基礎的な部分を学び、授業でも活用することで、将来普遍的に求められる「プログラミング的思考」を育むことにあります。
「プログラミング的思考」とは、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合わせをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」と定義されています。(文部科学省「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)より)
石狩市の全小学校で行った『プログラミング教育出前授業』について
前佛氏が所属するさくらインターネットでは、2017年2月から、石狩市の全小学校にてプログラミング教育出前授業を行っています。小学校におけるプログラミング教育の導入支援を目的とし、さくらインターネットから講師を派遣しています。
前佛:今回のプロジェクトの話が出たのは、2016年の冬のことです。当時、「プログラミング教育は2020年から始まります」という予告の段階で、新学習指導要領が公示前であるなど、まだ具体的な話には至っていませんでした。一方、石狩市は、ICTや情報を活用できる人材を育成することが、地域に産業を根付かせることにつながり、将来の財産になると考えていました。
そこで、当社としても石狩市に何かできることがないかと思い、今回のプロジェクトに至りました。
こうした会社としての役割もあるものの、前佛氏の自身の経験も背景にあります。
人生を左右してしまうほど、大切な「興味を持つ機会の有無」
前佛:今コードを書ける人は、そのきっかけはどこにありましたか?きっと、周りに書ける人がいたり、家や学校にパソコンがあったりなど、身近な生活で触れる機会があり、興味を持ったのではないでしょうか。
今回の学校教育では、「体験」的な要素がほとんどですが、それこそが大事だと考えています。もしかしたら、学校で教えていく中で、苦手意識を持つ人もでてくるかもしれません。しかし、身近な生活の中で、触れる機会がなければ、コンピューターに興味を持つ機会もないのではないかと考えています。
前佛:ちなみに私は小学生のとき、走るのが遅く、体育が大嫌いでした。でも、最近になってランニングを始めたら走るのが楽しくなりました。今興味がなくて嫌いでも、学校で基礎を学んでおくことで、将来に役立つこともあると思うのです。
もしかしたら、体育の授業がきっかけで、才能に気づいたり興味を持ったりしてスポーツを始め、地域のスポーツチームでの指導や専門のトレーニングを受け、アスリートになる子もいるかもしれません。プログラミング教育も同じです。
私は小学校の頃からコンピューターに興味はあったものの、田舎で学べる環境がなく、16歳の頃にやっと本格的に学ぶことができました。周りにいる「できる人」は、小さいころからコンピューターに触れてきた人ばかりで、この10年のブランクはとても悔しいものでした。
前佛:学校は体験的要素が強く、授業では一歩進んだ内容は扱うことは時間的にも難しいです。そのため、学校任せにせず、地域のクラブ活動やネットコミュニティを上手く活用していくことが重要です。私も一エンジニアとして、学校外で更に学べる環境を用意できればと思っています。
石狩市の小学校におけるプログラミング教育の推進には、石狩市の想いと、前佛氏をはじめとした、会社としての想いが合致したというのが背景にありました。
いざ実施するにあたっては、教育委員会や先生など、関係各所との様々な調整がありました。その模様に関しては、次の講演でお伝えします!
第二部 プログラミング教育を取り巻くステークホルダーと議論
続いて、プログラミング教育を取り巻くステークホルダーと議論について、さくらインターネット・「石狩市への小学校プログラミング教育支援プロジェクト」シニアプロデューサーの朝倉恵氏より、講演がありました。
朝倉氏は、石狩出身で、以前幼稚園教諭として働いていた経歴もあることから、このプロジェクトを自ら立ち上げました。
「先ほどは『自分の立ち位置でできることを』という話もありましたが、ここからは、『自分はどのような役割になろうかな』ということを考えながら聞いてほしい」と、話していました。
まずは、さくらインターネットがどのように出前授業を実施していったのかについて振り返りました。
出前授業を実施するまで
朝倉:プロジェクトを立ち上げた当初は、教育委員会との繋がりはありませんでした。市役所に勤めている知り合いに、教育委員会の人を紹介してもらうところからスタートしました。
その頃、ちょうど福井県でプログラミング教育セミナーの募集があり、当時交流のあった、市役所の企業連携推進担当の方をお誘いして一緒に参加しました。まずは、石狩市の街作りや企業誘致に関わる担当の方にプログラミング教育について知ってもらって、その必要性を感じてもらわなければ現状は変わらないと感じたからです。我ながら少々早まった行動ではありましたが……(苦笑)
思惑どおり、「これは石狩市でもやらないと!」と思って頂けたので、結果オーライです。
それから、計画を立てること半年、やっと出前授業にこぎつけることができたのですが、ここで市から3つのオーダーが入ります。
- 市内に13ある全ての小学校で、同じ要領で行ってほしい
- メニューをいくつか作って、各学校で選べるようにしてほしい
- プログラミング教育についての情報発信をしてほしい
しかし、この段階では次期学習指導要領がまだ公示されておらず、「各学校にパソコンがどれくらいあるのか」など、設備がどれくらい整っているのかすらまだわかっていませんでした。そのため、各学校とは綿密な打ち合わせを重ね、担任の先生にご指導いただきながら、指導案を一緒に作っていきました。
プログラミング教育についての情報発信は、紙ベースでの情報発信を行いました。IT業界なのですぐwebにアップしようと思うところですが、教育委員会から「先生方には紙で配った方が情報に目を通していただきやすい」と助言をいただいたので、「こどもプログラミング通信」という情報紙を配布しました。
朝倉:未だに石狩市内の先生方が情報紙を見て連絡をくれたり、情報紙をファイリングして取っておいてくれたりする姿を見ると、紙面で配布することのメリットにも改めて気付くことができました。
プログラミング教育の可能性を見いだせた初授業
朝倉:初授業は2017年の6月22日、八幡小学校にて行われました。初めての上に、1・2年生が混在する複式クラスで行うという、自分にとってはハードルが高い授業でした。
子供たちに、5つの品物(車、ごみ箱、ソファ、掃除機、テレビ)を、コンピューターが使われているものとそうでないものに分けてもらい、そのあと、「コンピューターの仕事(役割)」が描かれているカードを割り振ってもらいました。「なぜ自分がそのカードを割り振ったのか」、子供ながら活発な議論を交わしました。
一番印象的だったのが、「もしソファにコンピュータが入ったら、どうなるだろう?」という質問を投げかけた時。既にある「マッサージチェア」や、リモコンを押すと倒れるソファ(リクライニングベットのイメージ)の意見も出ましたが、「人の身長に合わせて座面が変化するソファがあったらおもしろいよね」というアイディアも出ました。この発言には、小学校1・2年生でそういう考え方ができるんだ、とその場にいた先生方も私も、びっくりしてしまいました。
プログラミング教育実施における、様々な立場とその背景
朝倉:現在、プログラミング教育には、教育委員会や保護者をはじめ、民間事業者などそれぞれの立場や考えがあり、更に、文部科学省だけではなく様々な省庁が携わっています。そのため、足並みを揃えることや、どこに焦点を当てるか難しい状態です。
朝倉:私たちのプロジェクトが「石狩市小学校プログラミング教育支援プロジェクト」という、長い名前になったのもここに理由があります。様々な立場の中で、先生(教育委員会)が板挟みになり、苦しい想いをしているのではないかと思い、そんな先生方を助けたいと思ったのです。
プログラミング教育においての様々な意見
プログラミング教育についてはマスコミをはじめ、様々な意見があります。ここでは、朝倉氏が実際に出前授業を実施した経験も踏まえ、それぞれのトピックについての自身の見解を示しつつ、参加者からも意見をいただきました。
朝倉:皆さんは、プログラミングは誰が教えるのがベストだと思いますか?
学校でやるのだから先生がやるべき、補助教員を付けるべき、民間企業などのエンジニアや一般市民や学生のボランティアが教えるべきといった意見があります。
実際、私が出前授業して先生方にアンケートとったときにも、「これは小学校の先生が教えるべきではない」という回答もありました。
現状、私は会社のCSR活動として、東京から出張で来ています。他業務との兼ね合いや部署の異動なども今後考えられ、永遠に協力できるかどうかは保証できません。そのため、今だけではなく状況が変わったときにも対応できるような仕組み作りをしていく必要があると感じています。今回の石狩市のプロジェクトでは、地域に根差したプログラミング教育を目指しています。
「誰が教えるべき」ということについては、小学校の実情や新学習指導要領での学習が始まるまでの期間の短さなども考慮にいれ、子供たちの発達に合った教材を適切に選べるのは誰なのか、子供たちの身に着けるべき技能・知識に精通しているのは誰なのかなどを、しっかりと見極めつつ議論していく必要があります。
プログラミング教育における地域差
朝倉:このほか、自治体や学校によってもプログラミング教育への興味関心や、得意不得意の違いがあることも問題にあります。「先行的に実施している」地域と、「他と足並みを揃えたい」「やったもん負けは避けたい」といった、意識の差もあります。
朝倉:全国的な支援を展開するNPO法人によるプログラミング教育支援実施状況を示した地図を例にとると、北海道だけを見るとまだ動きがほとんどないように見えますが、視点を全国に広げて地図を見た時には、印象が異なることがわかると思います。
北海道にお住まいの方には、あまりプログラミング教育が活発に動き出しているようには見えないかもしれませんが、全国的にはすでに活発に動いているのです。
この日は東京から、文科省や総務省の教育ICT(情報通信技術)に携わる平井聡一郎氏が駆け付け、「さくらインターネットがいないと、プログラミング教育が成り立たない、という状態にしてはいけない。皆が支え合っていく必要がある。この2年かけて、プログラミング教育を無理なく続けられるような仕組みを構築していくといい。そのためにも、クラウドファンディングを利用したり、先行して取り組んでいる事例があるので、これらを活用してほしい」という言葉でイベントは締めくくられました。
以上、石狩市の小学校プログラミング教育における、さくらインターネット株式会社の取り組みをお伝えしました!
プログラミング教育の本格的導入まであと2年あります。その間に、それぞれの立場でどのようなアクションを取ることができるかが、今後に向けてのキーワードとなりそうです!
<関連記事>
さくらインターネット株式会社やビットスター株式会社など4社の有志メンバーで立ち上げた、子供向けプログラミングスクール「KidsVenture」についてはこちら
青少年科学館で開催。KidsVentureプログラミング教室に行ってみた!
2017年7月31日(月)、厚別区新札幌にある札幌市青少年科学館(以下、青少年科学館)で開催されたKidsVentureプログラミング教室に行ってきました。 札幌市青少年科学館 は地下鉄東西線新さっぽろ駅1番出口正面、またはJR千歳線新札幌駅からサンピアザ経由で徒歩5分の場所にあります。 インタビュアー・構成・撮影 : 赤沼俊幸 取材日 : 2017年7月31日 …
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