「ぶっちゃけ、本当は夜だけで稼げる店だったんですけど…」と、悲痛な思いを吐露したのは株式会社esエンターテイメント代表取締役、鈴木慎也さん(以下、鈴木さん)。
取材は終始明るい対応の中、その声だけは小さく呟かれました。
インタビュアー・取材・撮影・構成:赤沼俊幸 取材日: 2020年9月3日(木)
コロナで売上が大激減したOyster&Steak House es
取材した店は株式会社esエンターテイメントが経営するOyster&Steak House es(以下、es)。厚岸大澤水産直送ブランド牡蠣「マルえもん」と、十勝豊西ファームのブランド豊西牛を、毎日新鮮な状態で直送。新鮮な牡蠣とステーキを美味しく食せる店です。すすきの駅から徒歩1分ビルの屋上階というアクセスも良い飲食店です。
札幌市中央区南4西4 恵愛ビル 8F Oyster&Steak House es
esはコロナ以降の外出自粛により、売上が大激減します。
「元々は宴会やパーティーが多い店でしたが、コロナの影響でごっそりお客さんが来なくなってしまいました。この札幌中心部のすすきのにも、来ることが厳しくなり、全てのマーケットがなくなりました」と鈴木さんは語ります。
コロナ後のesは「なんとか常連さんに支えてもらっていました」とのことですが、立地が良く、広い店内のesは家賃が高く、家賃分すら賄うことが難しい状況だったといいます。
コワーキングスペースの誕生
どうやってこの状況を打開するのか。ある日の昼間。鈴木さんはesで仕事をしながら、思いつきます。「この広いスペースを仕事場として使ってもらおう」
飲食店としてのesの通常営業は夜18時以降のみ。しかし、デリバリーサービスを提供していたため、日中もスタッフは常駐していました。使っていなかったのは店内の空間だけという状態。鈴木さんはこの使っていない店内をコワーキングスペースとして提供することを考えます。
esのコワーキングスペースは今年、2020年8月から、無料β版として提供開始。9月から正式スタートしました。
「月会費は1万円で、ディナーは30%オフになります。飲食店の強みとして、他のコワーキングスペースとして差別化していきます。常連さんには応援の気持ちとしても入会いただいています」
コロナは飲食店としては大逆風でした。しかし、コロナ禍以降のテレワークの推奨は、コワーキングスペースとしては追い風になりました。
「突然、テレワーク推奨って言われちゃっても、家で仕事をするにも限界がありますよね。家で仕事は難しい方もいます。そのような方に使っていただいています。ちょうどすすきの駅のスタバもなくなっちゃいましたし」
2020年5月にすすきの駅直結のラフィラが閉店します。それとあわせて、すすきの駅のスターバックスも閉店。すすきの駅付近で仕事できる場所が少なくなりました。一方、esはすすきの駅から徒歩1分。アクセスも便利。
現在のコワーキングスペースの会員数は44人(※取材当時)。フリーランスと経営者が半分ぐらいを占めます。業種はバラバラで、Web制作、エンジニア、デザイナーといったクリエイター職から、アパレル、美容師、コーヒー屋、マッサージ師など「いい感じにわかれています」と鈴木さんは語ります。会員の半分は既存の飲食店としてのesを利用していたお客様。
「17時から会議して、そのまま19時に設定した食事会に流れていくケースもありますよ」と、飲食店+コワーキングスペースの特徴を活かした利用もあるそうです。
アイテルの導入
さまざまな業種の会員がいるesのコワーキングスペース利用者は交流を求めたり、賑わいを求めて利用する方が多いようです。「今、コワーキングスペース内に誰かがいるか知りたい、という声もありました」と鈴木さんは話します。
「アイテルの導入は8月コワーキングスペース利用者には、誰かがいることを伝えられると思いましたし、無料でしたので、話を聞いてすぐ導入しよう!と思いました」
アイテルはIoT×AI画像解析を利用した空席状況お知らせサービス。運営は北海道札幌市に本社を構えるエコモット株式会社(以下、エコモット)。
利用したいユーザーはLINEでアイテルを友達追加します。
アイテルのLINEトーク画面で位置情報からお店を探すボタンを押します。
今いる場所(位置情報)を送信。
店が一覧で表示されます(アイテルが導入されている店舗)。
店を選び、アイテル?ボタンを押すと、店内の様子が表示され、すぐ空席情報を確認できます。
飲食店では「密」にならないかどうか
一方、esの飲食店では、アイテルをコワーキングスペースと逆の使い方をしているようです。
「コロナ以降の飲食店を選ぶ基準は密かどうか。1階にある路面店でしたら、店を覗けば空席状況がわかりますが、8階にあるesのような空中階は行くコストもあります。それを考えると、電話もコスト。アイテルでは密かどうかをコストなく、すぐ確認できます」
飲食店としてのesは密にならないかどうか、コワーキングスペースとしてのesでは人がいるかどうかを確認するツールとして、アイテルを利用。同じ場所、同じツールでもスペースの使い方によって、ユーザーの利用目的は異なるようです。
コロナ収束後もアイテルが必要となるのでは、と鈴木さんは話します。
「コロナがなくても、入店できるか判断するツールとして、アイテルは十分な機能を兼ね備えています。この機能はコロナが落ち着いても、必要になってきますね」
「今までリアルタイムで店内の様子を確認できるツールはなかったと思います。今までは店内の様子を見せることに抵抗があったので、導入は難しかったかもしれない。逆に言うと、コロナ禍じゃなかったら、導入を拒む店舗もあったはず。コロナ禍の中で、密を回避できるかが確認できることは、重要になっています。導入のタイミングとしては、絶好でしょう。アイテルのプラットフォームとして、どんどんプラスに積み上がっていったら、今までにないサービスになるのでは」と鈴木さんはアイテルにエールを贈りました。
アイテルのサービス担当者、エコモット株式会社 IoTインテグレーション事業部営業第2グループ主任の薄木達哉さん(以下、薄木さん)に現在の導入状況について、お伺いしました。
「飲食店、スポーツジムを中心に現在、約30店舗の導入があります(※取材当時)。まずは100店舗の導入が目標。現時点ではまだまだですが、札幌市で1,000店舗の導入があれば、LINEでお店を探す時代がやってくるはず」と力強く語りました。
安心と安全をどう担保する?COCOONのガーデンズキャビン
「安心感と安全をどう担保すればいいんだろう?ということをずっと考えていたんですよね」
そう話すのは北海道コカ・コーラボトリング株式会社、成長戦略策定室 室長の三浦世子さん(以下、三浦さん)。
北海道コカ・コーラボトリング株式会社は、道内の宿泊・飲食業等と連携し、店舗の遊休空間と利用者を繋ぐ、ワーキングプラットフォーム“COCOON your branch(以下、COCOON)を運営している企業です。
続いては、COCOONを担当している三浦さんに、COCOONのスペースであるガーデンズキャビンでお話を伺いました。(コワーキングスペースとしてのガーデンズキャビンについては以前、キタゴエでも取材しましたので、こちらの記事も合わせてご覧ください)
ガーデンズキャビンは大通駅から徒歩2分のアクセス抜群のホテル。通常の客室とあわせて提供しているカプセル型のキャビン型客室は札幌の中心部ながら、リーズナブルな料金で宿泊可能。
ガーデンズキャビン 札幌市中央区南1条西4丁目4−1
三浦さんによると、施設のこだわりは札幌で数少ないセルフ・ロウリュが楽しめる本場フィンランド式サウナ。そのこだわりは、ガーデンズキャビンの後藤陽介社長は十勝サウナ協議会の会長に就任しているほど。
質の高い提供サービス、抜群のアクセス、リーズナブルな料金で人気の高いホテルでしたが、北海道でのコロナ陽性者の増加、コロナによる移動自粛などにより、宿泊者数は激減。
ガーデンズキャビンはコワーキングプラットフォームCOCOON your branchを活用して、2020年4月より、ホテル利用者向けのラウンジをコワーキングスペースとして提供するサービスを開始します。しかし、4月12日の北海道と札幌市による緊急共同宣言を受け、一時は休館せざるを得ない状況にまで追い込まれてしまいます。
その後、6月に営業再開しますが、ガーデンズキャビンにも人が入りづらい状態になってしまいました。「でも、ガーデンズキャビンは衛生面でも意識が高く、細心の注意をしているホテルです」と三浦さんは話します。
衛生面での配慮は最大限行っていますが、それをどのようにして、利用者の方に伝えればいいのでしょうか。三浦さんは苦慮します。「安心感と安全をどう担保すればいいんだろう?と、ずっと考えていたんですよね」
「一般的な施設のコロナ対応は手の消毒やサーモグラフィカメラなどですよね。ただ、それは来てからわかること。来る前に何かしらの方法で、どれくらいの混雑なのか、確認できることが安心に繋がるかと考えました」
そこでCOCOON your branchのアプリにも利用したサービスがアイテル。アイテルを利用すれば、COCOON利用者はラウンジの空き状況が一瞬でわかります。
「アイテルによって、ラウンジの混雑状況がわかることで、利用者の安心感に繋げたいと思いました」
アイテルを導入したのは2020年8月。専用アプリのCOCOON your branchのリリースと共に、アプリ内にアイテルを導入。COCOONアプリ内で施設の空き状況が確認できます。
三浦さんはコロナ禍以降、スペース利用の考えに変化が生まれたのでは、と語ります。「今は混雑を避けるので、皆さんできるだけ空いているところに行きたいと考えています。コロナ前は混んでる中で集中できる。賑やかなところに行きたい。人を感じる場所に行きたいと考える方が多かったと思うのですが、コロナ禍以降は、空いているところを探すという行動に変わってきていると感じます。
今後はアイテルで混雑状況を確認してから来店する習慣が生まれるかもしれません。三浦さんはエコモットと提携した理由として、北海道企業同士だから、とも語りました。
「道内企業同士で手を組めるのがいいですよね。東京発のサービスはよくありますが、北海道発のサービスが全国に広まる例は少ないですよね。お互い北海道をなんとかしたい気持ちが強い。北海道でアイテルが生まれて、安心して働くことができる環境がたくさんある、ということを、ぜひ全国の方に伝えたいですね」と話しました。
アイテルの導入費用
アイテルの導入費用はいくらでしょうか。esの鈴木さんのインタビューでも話題に出ましたが、なんと札幌市内は「無料」で導入可能。なぜ無料で導入できるのでしょうか。
アイテルは新型コロナウィルス感染拡大防止事業によるIT利活用促進事業費補助金に採択されており、札幌市内に関しては100台限定で無償提供されているそうです。
現在、アイテルを導入してる場所の1/3は補助金内できているそうです。補助金以上の費用になっても、現在はエコモットが負担。補助金終了後も、コロナ禍での3密対策の場合は無償で提供するようです。
補助金終了後のアイテルを無償提供に私は驚きました。心配になり「補助金終了後に無償提供すると、エコモットの利益がないですよね。大丈夫なのでしょうか?」とエコモットの薄木さんに疑問をぶつけました。
「景気が戻ったら、提案しようと思って(笑) コロナが怖くて、飲食店に行けない方をアイテルによって、どれだけ集客できるか。このままさらに飲食店などが潰れてしまうと、北海道経済に大打撃になってしまう。アイテルによって、少しでも北海道経済に貢献したい。そして、アイテルの認知度が向上してくれればいいなと考えています」と薄木さんは理由を語りました。
アイテルの導入方法
アイテルはどのようにしたら、導入できるのでしょうか。今回取材したesの鈴木さん、COCOONの三浦さんに「導入で大変だったこと、手間だったことはありますか?」と同じ質問を投げかけたところ、お二人とも「なにもありません」と答えられました。
実際の導入はエコモット社が制作してるカメラを店舗内に取り付けるだけ。店内の席状況がわかる場所にカメラを設置します。広い店内であれば2箇所以上のカメラを設置。機器にSIMが入っているため、ネット環境は必要ありませんが、電源が必要です。
「機器の設置は30分ほど。固定して電源を入れるだけです。飲食店であればその後、お店で食事します(笑) 札幌市内であれば直接訪問して、設置しますよ。僕らの手がアイテル限りは」とエコモット担当の薄木さんは明るくお話ししました。
取材を終えて
コロナは世界にさまざまな影響を与えました。暗いニュースが多い状況ですが、その中でも生まれていく価値があります。そのひとつがアイテル。インタビューでも語られましたが、コロナによって意識が変化した結果、来店前にアイテルすることが、新しい行動様式になるかもしれません。そのようなサービスが北海道から生まれる予感がした取材となりました。
この記事をシェアする
同じカテゴリの新着記事
北海道ITまとめ
-
IT企業まとめ
-
スペースまとめ
ジョブボード
- 社名
- 募集職種
- 内容
- 給与・待遇
- 詳細
- 掲載終了日
ジョブボードに掲載したい企業募集中!詳しくはこちらより