「魚の気持ちを解き明かす」ことを目標としている先鋭的なベンチャー企業が札幌にあることをご存知でしょうか。バウリンガルの魚バージョン?いいえ、ちがいます。その企業は、これまでにない客観的な釣果データ取得を目指し、世界初のIoTルアーを開発しているんです。
今回は株式会社スマートルアー(以下、スマートルアー社)の代表・岡村さんと広報・高橋さんにインタビューを敢行。後編ではオウンドメディア「スマルア技研」や札幌で働くことのメリットについてお話を伺いました。
インタビュアー・撮影・構成:谷 翔悟 取材日:2019年2月12日 / 撮影場所:Beer Bar North Island
前編:世界初のIoTルアーは釣りの何を変革するのか?開発会社「スマートルアー」の代表・広報にインタビュー
”釣りバカ集団”のスタートアップが札幌を選ぶ理由とは?
――岡村さんのご出身は千葉県ですよね?
岡村:ええ。東京で仕事をしていましたが、2014年に前職の転勤で札幌に来てからは、ずっと札幌に住んでいますね。
――なぜ東京に戻ることを選ばず、札幌でスタートアップを始めようと考えたのでしょうか?
岡村:会社を作る前は、東京のほうが人や資金を集めやすいし友達もいるので、どちらにするか迷いましたね。でも、うちは釣りバカの会社ですから、よりよい釣り場があるほうで働きたかったんです。
岡村:札幌は、中心街から車で1時間ほど走れば支笏湖という90cmクラスの大物マスが釣れるフィールドがありますよね。世界にも有名な釣り場はいくつもありますが、どれもかなりの辺境にあったり、まわりに小さな村しかなかったりするんです。それに比べると、人口が200万人もいてお店もたくさんある都市に住みながら、支笏湖という釣り場へアクセスしやすいというのは、とても魅力的でしたね。
――なるほど。札幌には、釣りに関わる会社ならではのメリットがあるんですね。
岡村:うちは決算も12月にしているんですよ。春から秋にかけては、暇があれば釣りに行きたいわけで、書類仕事とかデスクワークするのは苦痛ですよね。それじゃあ、雪が積もって釣りに行くのが厳しい冬にまとめてやろう、と。
岡村:本当にうちの社員は自分含めてみんな、冬まで経理の帳票とか溜めっぱなしにするんだよなあ(笑)。でも、素晴らしいフィールドがありながら一年中釣りできるわけじゃないっていうのは、働く上ではいいことですね。
高橋:ただ、社員全員が札幌にいるわけではないんですよ。東京やカリフォルニアにも社員がいますし、基本的にはみんな自宅でリモートで仕事しています。たまにミーティングや実地テストで集まるという感じですね。
オウンドメディア「スマルア技研」が目指す新基軸の釣りコンテンツ
――では、高橋さんが運営しているスマートルアー社のオウンドメディア「スマルア技研」について聞かせてください。
高橋:「スマルア技研」の軸は、平均・標準といったものから外れたトピックを載せることにあります。とにかく尖っていて、敬意を込めて「変態」と呼びたくなるような突き抜けた記事を掲載していますね。
――変態(笑)!たしかに、ものすごい熱量の記事が多いです。
高橋:スマートルアーを使おうとするのは、釣りに関して明確な課題を持っている人たちだと思うんです。なにか釣りや魚についてわからないことがあって、論文を読んだりデータを取っている人たち。「スマルア技研」は、そういう人たちがライターとして記事を書いたり、読者として集まるメディアを目指しています。
――なるほど。今後、スマートルアーが販売開始になってユーザーが増えれば、「スマルア技研」でもそのデータを使った記事が掲載されることもあるんでしょうか?
高橋:そういうこともやっていきたいですね!実際に大学の学生からも「スマートルアー社のデータを研究で使わせてほしい」というオファーがきているんですよ。そういった研究結果をコンテンツ化して「スマルア技研」に載せるのも面白そうだなと考えています。
――かなりアカデミックな内容になりそうですが、そういったものこそ論文ではなくウェブメディアの形式で読めることは、大きな意義がありそうです。
高橋:明確な疑問があるひとは、スマートルアーを使って得られる水温や濁りなどの情報を、すぐに自分の仮説に当てはめられる人だと思うんです。そういう人たちを集める意味でも、オウンドメディアをやる意義はあるだろうと考えています。
岡村:このくらいのステージのスタートアップ企業がオウンドメディアをやるって、ちょっと変ですよね。でも、いまはまだプロトタイプを作っている段階なので、見込み顧客に見せられるものがないんです。それなら、論文や研究結果を読むような人たちを狙って「スマルア技研」を運営すれば、スマートルアーと親和性の高い人たちにリーチできるんじゃないかと。
高橋:最終的には、スマートルアーや「スマルア技研」がきっかけで釣りにハマった方が、ブログやSNSで、魚や釣りの考察、「自分の場合はこうだった」というのを書いてもらえたら嬉しいですね!
――では最後に、「スマルア技研」のイチオシの記事を教えてもらえますか?
高橋:難しいなあ。アクセスランキングは出してますけど、イチオシとなると甲乙つけがたいので、本当に難しいです。
岡村:どれも尖ってるからね。高橋の個人的なおすすめ記事を紹介してよ。
高橋:それなら、まずは「真夏のベジテーション攻略法は大間違いだった!」ですね。
高橋:釣りのセオリーに対して、科学的な思考で挑戦する記事です。真夏のバスフィッシングでは生い茂ったヒシ藻(水面に浮かぶ水草)の下を狙うという常識のもと、「パンチング」や「フロッグ」といったテクニックが編み出されてきました。しかしこの記事では、むしろ水草のない開放的なエリアの方が釣れるのではないか、という提案を水中の酸素量の測定結果から投げかけています。
▶魚は痛みを感じない。「磁気」を感じて釣り針を認識しているという最新説
高橋:SNSでの反響が大きかったのは「魚は痛みを感じない。「磁気」を感じて釣り針を認識しているという最新説」ですね。釣りと科学に関する書籍・論文を多数執筆されている川村 軍蔵先生による記事です。一度釣られた魚は、その後は釣りにくくなるという定説があります。それを踏まえて釣り人たちは、ルアーの色やサイズに変化をつけて魚にアピールするわけですね。しかしこの記事では、「魚は釣り針の磁気を学習しているのではないか」という大胆な仮説を展開しています。弊社のルアーにも、帯磁しない素材の釣り針をつけたいですね!
▶筆者が釣り日誌・釣りノートを書くいくつかの理由とホントの理由
高橋:実際に水温や移動経路まで含めた細かい釣りの記録を取っている人が、前後編に渡って記録することの重要性を熱弁するのが「筆者が釣り日誌・釣りノートを書くいくつかの理由とホントの理由」です。あまりの熱量に、私も半分引き気味で編集してました(笑)。でも、実際にこの記事を引用して議論をしている方もいて、他の記事とは違う存在感があるなと感じています。
――本当にどれも尖っていますが、読んだあとすぐ釣り場で試してみたくなるような記事ばかりですね。岡村さん、高橋さん、ありがとうございました!
世界初のIoTルアーは釣りの何を変革するのか?開発会社「スマートルアー」の代表・広報にインタビュー(前編)
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