道東支部のこちゆうです。今回は、帯広市に本社を置く株式会社ファームノート様のご協力の下、中標津町で「有限会社 希望農場」を営む佐々木 大輔代表にお話を伺いました。
希望農場では同社の製品であるFarmnote Color(ファームノートカラー)だけでなく、アジアで初めてロータリー型式搾乳ロボット「AMR(オートマチックミルキングロータリー)」を導入するなど、農業経営におけるIT活用を積極的に進めていらっしゃいます。
その背景には、いち農家として省力化を目指すだけでなく、一次産業を担う者として、また今を生きるものの責務として、農業や地域産業の永続、そして活性を目指す覚悟がありました。
取材・撮影 : こちゆう 取材日: 2019年9月12日(木)
希望農場はこちら
希望農場は中標津の中心部から車で約15分ほどの場所にあります。
〒086-1137 標津郡中標津町字俵橋1736番地
今回お話を伺ったのは、敷地内にあるファームカフェ「2π(ツーパイ)cows Cafe」。
こちらではトーストやソフトクリーム、発芽麦茶などのドリンクを楽しむことができます。
メニューの食材として使われている小豆や食パンの小麦、二条大麦は、実は希望農場で栽培されたもの。小豆や発芽麦茶は、佐々木さんが経営している別会社「中標津クラフトモルティングジャパン」の製品として、店内で販売もされています。
筆者は小倉トーストをいただきました。ふわっふわで一枚ぺろりと食べられました!皆様もぜひご賞味ください。
店内にはファームノートカラーが施された牛のモニュメントが置かれていました。
さらにAMRのメーカーであるDeLaval(デラバル)社のロゴが入った牛のテーブル席を発見!今回はこちらで取材をさせていただきました。
IT活用は「地域と産業の将来のため」
アジア初のAMRやファームノートカラーの導入など、ロボットやITツールを農業に活用されている佐々木氏。さぞやこうした分野に詳しいのだろうと思っていたのですが、お話を伺うと意外な答えが返ってきました。
佐々木「ITなんてよくわからないし、どちらかといえば嫌いな方です。スマホも、きっと本来活用できる機能の10分の1くらいしか使いこなしていないと思います」
−−− 正直、ITにかなり明るい方だと思っていたので意外です。ではなぜAMRやファームノートカラーを導入しようと思ったのですか。
佐々木「農業の新たな担い手を生み出し、中標津の経済を将来につなげるためですね。
佐々木「私たち一次産業は、経済全体の根幹を担っていると自負しています。極端な言い方ではありますが、私たちが今よりもたくさんの牛乳を搾ることができれば、もっと多くの企業関係者が中標津にやってくるでしょう。そうすれば、中標津の街全体が活気づいていく。
実際に、私は従業員に『街の飲み屋のネオンがひとつ消えたら自分たちの責任だと思いなさい』と伝えています」
ひとつでも多くの取り組みで可能性を広げる
佐々木「たくさんの牛乳を搾るためには人手が必要です。ただ、この牧場の規模で10人、20人もの人材を雇うのは経営上無理がある。そこで少ない人数で生産性を高めようとAMRを導入しました」
−− なるほど。これだけの設備だと、費用もかなり掛かったのでは?
佐々木「そうですね、AMRを含む施設投資に約7億円、さらにそれ以外の周辺投資に約3億円かかりました。トータルで大体10億円くらいですね」
−− 10億円!すごい金額ですね。不安はありませんでしたか?
佐々木「もちろん上手くいく保証はありませんからね。しかし、それは投資に関わらずどの農家も同じことです。
北海道の農業が消えるということは、日本の食料が消えるということを意味します。だからこそ、この土地の農業はなくならないし、投資対象としては十分価値があると思っていますが、戸数は減っていくでしょう。
生き残っていくためには強い競争力を持つことが大切です。そのためにも、ひとつでも多くの取り組みを行うことで、将来につながる可能性を高めていきたいというのが私の思いです」
ITは「使うもの」 最後に大切なのは人の目
−− なるほど。ところでAMRを導入することで、どれくらい生産性が上がったのですか?
佐々木「うちの敷地内には250頭強ほどの牛がいるのですが、以前は全て搾乳するために、4人がかりで1日8時間かかっていました。今はAMRを使っているので、それが2人まで減らせています。2人はその間、違う作業ができるので生産性が上がっていますね。
佐々木「24時間自動で稼働するロボットもありますが、それだと人の目で牛の状態をチェックする機会が減ってしまうんです。すると、知らぬ間に牛がストレスを抱えていたり、病気の予兆を見落としてしまって、結果的に生産性が下がってしまいます。
ロボットを導入しても、最後はやっぱり人がきちんと目で見て管理しないといけません。でも人手不足ですから、できるだけ関わる人を減らしていこうというのが、農業におけるITやロボット導入の必要性だと思います」
素人でも農業経営に携われる機会を
−− Farmnote Color(ファームノートカラー)を導入されたのもそのためですか?
佐々木「Farmnote Colorは省力化という面もありますが、正確性を高めるためというのもあります」
佐々木「これまで牛の状態を把握する方法は、勘と経験に頼りがちでした。共有のための情報も、ホワイトボードに人が書き込んで管理していたので、どうしても細かな部分がぼやけたり、間違ったりしがちだったんです。
その点Farmnote Colorは、こうした不明瞭で間違いやすい部分を全て数値化できる。『そろそろ発情しそうだ』など牛の活動についても正確性が増すので、省力化できますし、効果も明確になります」
佐々木「さらに人工知能が学習していけば、その分成果も上がっていきますから、経営者はスタッフから数値などを報告してもらうだけで、適切な経営判断ができるようになるんです」
−− 確かにわかりやすいですね。これなら私でも牛の状況がなんとなくわかります。
佐々木「ええ。ですからFarmnote Colorは『農業の新たな担い手を生み出す』ためにも必要なシステムだと思っています。
前述の通り、牛の状況を把握するため勘と経験に頼りがちだったので、いくら知識を勉強しても、現場を経験する必要がありました。それに、たとえ現場で勘と経験を磨いたとしても、新規就農には1億円ほどの資金が必要だと言われています」
−− そんなに掛かるんですか。
佐々木「土地や農業に必要な機材を購入すると、ざっとこれくらいになります。1億もの大金、なかなか用意できるものではありません。
その点、法人経営している農場の従業員として関わっていけば、元手がなくても中標津で農業に携わることができます。さらに、能力があれば経営の一端を担うこともできるでしょう。
さらに、牛が発情しそうかどうかは全てシステムが判断し、見える化してくれるので、素人でも管理できます。牛が今置かれている状況がわかれば『発情ってこういうことなのか』というのを実際に目で確認できるということですから、人に教えられるよりもノウハウが自然と身につきますよね」
佐々木「こうして素人で新規就農したいという人たちに、農業ひいてはその経営に携わる機会を提供したいというのが私の思いです。
そのために弊社では5年以内に、役員枠を現在の1名から3名まで広げたいと思っています。3人いれば『農業の技術者としては素晴らしいけれど、一人で経営を任せるのは難しい』という人でも経営権を持つことができますから」
取材を終えて
素晴らしいビジョンを持ち、それを着実に実現している佐々木氏。現在は「中標津クラフトモルティングジャパン」で国産原料のみを使ったウイスキーにも挑戦されています。
中標津を訪れた際には、ぜひ街の散策を楽しんでみてください。その根底を支えようと奮闘する佐々木氏の思いが感じられるかもしれません。
有限会社 希望農場(ファームカフェ「2π(ツーパイ)cows Cafe」)
〒086-1137 標津郡中標津町字俵橋1736番地
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