通販サイトを通して、日本にいながら海外のお客様へ商品を販売することができる越境ECですが、釧路でこうした取り組みを行っているところは多くはありません。その理由として、海外への配送や外国語対応、また実績のない市場へ参入する不安などが考えられます。
こうした不安を解消し、ECを通して釧路の企業に販路を広げてもらおうと、株式会社サンエス・マネジメント・システムスから「越境ECセミナーinくしろ 道産食品食材ブランド戦略事業」を開催するということで、早速取材に伺いました。今回はその様子をご紹介します。
取材・撮影:こちゆう 取材日 : 2018年10月14日
ほぼ満員御礼でスタート!
今回会場となったのは、釧路市内にある釧路市交流プラザさいわいです。
釧路市交流プラザさいわい
〒085-0017 北海道釧路市幸町9丁目1
会場にはメーカーや小売業者など、さまざまな業種の方が来場。ほぼ満席の状態でスタートしました。
インバウンドよりすごい越境EC
最初に登壇されたのは、北海道マーケティング総研株式会社の吉村 匠氏。吉村氏はこうしたセミナーのほか、実際に越境ECを使って商品を販売するサポートなども行っていらっしゃるそうです。
今回は「道産食材食品の輸出・越境ECの取り組み」と題し、越境ECの現状とその取り組みについてのお話がありました。
はじめに世界全体のEC市場についての説明があり、拡大傾向にあること、なかでも他国よりも群を抜いているのが中国だということが紹介されました。その規模はなんと90兆円。続くアメリカでも35兆円ですから、中国がいかに大きな市場なのかが分かります。
その中でも道産品は比較的高値で販売されているものが多く、小売だけでなく飲食店などでも売られているそうです。
中国で今注目の新たな通販形態とは?
続いて現状の通販の形態について説明がありました。越境ECにかかわらず、通販には「モール型」「独自ドメイン型」「ソーシャルバイヤー型」という3つの形態があります。
独自ドメイン型は自社で商品販売を行うため利益率が高いものの、海外向けサイトを一から立ち上げなければならないという面があります。一方モール型は出店費用などが発生するものの、ボタン一つで多言語対応サイトを作成できる機能があるため、越境ECとして利用しやすいという側面があるそうです。
ただ、多言語対応すれば売れるというわけではないそうで、これまでの信頼や実績などが必要になるとのこと。越境ECのノウハウもそのひとつと言えそうです。
こうした中で、今中国で注目を集めているのが「ソーシャルバイヤー型」なのだと吉村氏は語ります。これはWeChatなどのSNSを通して活躍している「インフルエンサー」たちが、自ら商品開発から販売、流通まで行う形態のことです。
「インフルエンサー」とは呼ばれる世間に影響力を持つ人のことですが、こうした通販を行っている人はさらに「Key Opinion Leader(KOL)」と呼ばれているのだとか。副業が容認されている中国だからこそ注目される通販形態と言えるかもしれません。
「爆買い」一巡の理由は越境ECにあり
ここまで主に中国人の通販事情について触れられてきましたが、中国といえば通販よりも、インバウンド客による「爆買い」を思い浮かべる方も多いかもしれません。実は現在こうした現象はあまり見られないそうです。
これは数年前に、中国政府が海外から中国へ一度に持ち込める商品金額を大幅に減らしたため。その代わり個人でも越境ECで商品を購入しやすい制度を導入したため、日本での爆買い需要が落ち着いているのではないかということでした。
それを象徴するかのように、現在中国の輸入量は右肩上がりに増えています。その要因は越境ECの利用が大きく伸びているためです。
中国における越境EC市場は、2017年で約2兆円で、購入者の7割が女性なのだとか。実際に中国の基礎化粧品輸入額は大きく伸びているそうです。
市場はアリババ場グループの天猫(T-mall)や京東などが高いシェアを誇っていますが、若年層の間ではKaola.comも人気のモールとして名を連ねるようになっています。
ちなみに、近年日本の通販でもセールが行われるようになった「独身の日(11月11日)」は分単位で爆買いが起こり、2017年にはT-mallだけで6分間に3,247億円を売り上げたそうです。
人気ショップにはユニクロやマツキヨ、ムーニーなど日本で馴染みのある企業や商品の名前も上がっていました。
道内の越境ECの先駆者 小笠原 航氏
続いて登壇されたのは、道内の越境ECにおいて先駆的な取り組みを行っている株式会社山ト小笠原商店の小笠原 航氏。現在新千歳空港にふたつの実店舗を持ちながら、楽天に「北海道お土産探検隊」というECサイトを運営されています。
現在「北海道お土産探検隊」を多言語対応しており、海外から多くの注文を受け付けているそうです。実は今回のセミナーは「北海道お土産探検隊」へ商品をアップしてもらい、それを販売する個別商談も最後に用意されています。
今回は実店舗から見える海外客の傾向とECサイト運営や北海道の地元産品の強化に向けた取り組みについてお話がありました。
越境ECで成功した3つの理由
小笠原氏が空港内で経営されている実店舗は開店55年を迎える老舗で、現在は国内線と国際線でそれぞれ1店舗ずつ経営されています。両者を比べると、国内線の売れ筋の大半が有名メーカーのお菓子であることに対して、国際線はそれ以外に鉄器類や財布などの和小物、コスメやランドセルなど比較的高価なものが売れるそうです。
また平均単価も1,000円ほど国際線のほうが高いのだとか。ただし、売れ筋は国によって異なるため、国別での分析も行っているそうです。
実店舗の実績を引き下げ、2000年には楽天へもECサイトを出店。2012年には多言語対応し、越境ECへも参入されました。その売上は、なんと多言語対応からわずか2年で年間1億円!2014年にはモール内の優秀店舗を表彰する「ショップ・オブ・ザ・イヤー」の海外販売大賞にも選ばれ、現在も市場を広げていらっしゃいます。
なぜこれほどまでに、「北海道お土産探検隊」の市場が伸びたのか。その秘訣について小笠原氏は大きく3つ挙げられました。
1.越境ECサイトをネイティブ向けに徹底改良
ひとつはネイティブのスタッフを雇い、越境ECサイトを徹底的に改良したこと。
楽天はボタンひとつで今あるサイトを自動で多言語化できるそうです。しかし、2012年当初は自動翻訳だけではネイティブにとって不自然だったり、わかりにくい表現があったとのこと。そこで日本語・英語・中国語を話せる台湾人スタッフを採用し、ネイティブ向けに改良したのだそうです。
2.ネイティブによる丁寧な顧客対応
もうひとつはネイティブのスタッフに顧客対応をお願いしたこと。
特に中国人はメールでの問い合わせが多く、最初は翻訳システムなどを使って対応していたそうですが、それでは質、量ともに追いつかなくなってきたのだそうです。
そこで台湾人スタッフにメール対応もお願いした結果、自然と顧客が増えていったとのこと。小笠原氏いわく、おそらくネイティブの間で「あそこにはちゃんと言葉の分かるスタッフがいて、しっかり対応してくれるよ」と評判が広まっていったのではないかということでした。
3.北海道に拠点があるという安心感
もうひとつは北海道の店だという信用ではないかと小笠原氏は語ります。北海道を代表する銘菓「白い恋人」は中国でも人気で、偽物が出回るほどなのだそうです。そのため正規品を買ったはずなのに偽物が届くということも、中国国内では起こっているのだとか。
その点、小笠原商店は北海道に拠点があるため「間違いなく本物が届くだろう」と信用されているのではないかということでした。
北海道ブランドの可能性が広がる越境EC
国内では近年送料値上げがECサイト売上に大きな打撃を与えており、「北海道お土産探検隊」もそのあおりを受けているそうです。しかし越境ECにおいてはEMSの送料が一律のため、ほとんど影響はないそうです。
さらに訪日観光客においては、一度北海道に来ればその良さを分かっていただけることが多いそう。北海道にいらっしゃる方が増えれば増えるほど、越境ECの市場は広がっていくのではないかと感じているそうです。
取材を終えて
釧路には他の土地に負けないくらい、素晴らしい食材や商品が多数あります。今後越境ECを通して、こうした商品の市場販路が更に広がることは、釧路経済の活性化、そしてこの地のブランド力を高めることにもつながるのだと認識できたセミナーでした。
越境ECの可能性に、皆さんもぜひ触れてみては。
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