北海道4社「シベリアのシリコンバレー」を行く【後編】

北海道のIT企業が11月、ロシア中部・ノボシビルスク市のIT業界との交流に出かけました。メンバーはイークラフトマン、メディア・マジック、サンコー、ハイテックシステムの4社。前編に続き、現地での様子を報告します。
前編はここをクリック> 取材・構成・撮影 : 吉村慎司

取引先は米国・EU企業

IT企業プレゼンテーションイベントが開かれた11月14日、ノボシビルスク(以降ノボシ)市の気温はマイナス5度前後。シベリアは北海道以上に冷えますが、会場のテクノパーク最上階ホールではむしろ参加者の熱が高まっていきます。

北海道側が順調に発表を終えた後は、ノボシ側のプレゼンテーションです。最初は、米マイクロソフトの技術パートナーでもあるAI企業のExpaSoftが登壇しました。この企業は、ロシア国営の数学研究機関にいたデータ分析専門家が2010年に立ち上げたベンチャーです。

売りは、画像認識や音声認識で個々人を識別する各種分析エンジンで、独自ノウハウで認識精度を高めているとのこと。また、従来なら分析のためにサーバーを要していたところを、スマートフォンでも可能にする技術を持っていると説明します。

Expasoft社プレゼンテーション1

Expasoft社、画像認識システムについて

さらに、ファッション通販サイト運営などに用いる、利用者の好みを機械学習して商品を推薦するAIシステムの例も述べました。「LookApp」と呼ぶそうです。

Expasoft社プレゼンテーション2

Expasoft社、ファッション通販支援システムについて

次はDST社。これは「Deep Semantic Technologies」の略で、特定の意味・文脈を元に大量のデータを分析する技術を開発中との説明がありました。分析結果をビジュアル化できるのが特徴で、例えば、社内にある多種多様なデータを総合的に分析して事業のリスクを洗い出す、といった作業ができるようになると言います。

DST社のプレゼンテーション

DST社

3番手はCASESTUDIOです。この社は法人向けに、業務システムを自ら構築するためのプラットフォームを提供しています。もし顧客法人にプログラマーがいなくても、操作が簡単であるため、講習を短期間受ければ一般社員でもシステム構築ができるようになるそうです。

サービス名は「Case Platform」で、主な顧客は金融機関。ロシアの大手銀行をはじめ多くの納入実績があり、今後日本市場にも進出したいと語りました。

CASESTUDIO社のプレゼンテーション

CASESTUDIO社

最後は、北海道のIT企業に会おうと同じシベリア地方のオムスクという都市から参加した7bits。アンナ・タラシェンコ社長が登壇し、地元で展開しているITエンジニア教育プログラムについて説明しました。同社のプログラムから、米国・EU企業からも高評価を受ける優秀な若手が次々に出てきているとアピールしました。

7Bits社プレゼンテーション

7BIts社

ちなみに最後の2人は流ちょうな英語でのプレゼンテーションでした。10年前は「ロシアの企業人は英語が全然通じない」と言われていましたが、変わってきているようです。

発表の後は懇親会です。通訳者を交えて約1時間、飲み物片手に北海道・ノボシ双方のIT業界人が話に花を咲かせました。

ノボシビルスクIT懇親会

ビジネストークが尽きない懇親会

この後イークラフトマンの新山社長は、とある案件でノボシ企業と非常に具体的な商談ができたそうです。近いうちに何らかの発表をする可能性もあるとのこと。ロシアと北海道のIT企業同士、という初めてのコラボレーションが実現するかもしれません。時が来るのを待ちましょう。

ところで、原野が広がっているだけと思われがちなシベリアに、どうしてノボシのような技術都市があるのでしょうか。これには、旧ソ連と米国・西欧との東西冷戦が関係しています。ソ連指導部は1950年代、西側による軍事攻撃から自国のテクノロジーを守ろうと、優れた科学者・技術者たちを首都モスクワからユーラシアの奥地・シベリア地方に集団移住させました。

この受け入れ先として当時ノボシ市の外れに新しく開発したのが、今回のイベント会場も位置する「学術の街」地区です(現地語では「アカデムゴロドク」)。現在この地区には、ロシア全国でベスト3に入るとされる名門ノボシビルスク国立大学など約50の教育機関、そして38の研究機関があり、多様な研究成果や技術、人材の源となっています。

国際的な知名度こそ高くありませんが、そのレベルの高さは折り紙付き。北海道は、こんな都市とつながりがあるわけです。

テクノパーク建物夜景

イベントが終わるとすっかり夜に(テクノパーク)

日本語を話すノボシのITエンジニアたち

こぼれ話をひとつ。一行はプレゼン会を終えた14日の夜、日本語を学びながらIT関係の仕事に就いている20代のロシア人男性3人と会食しました。全員、いつか日本で働きたいと考えている若者です。ボルシチなど有名なロシア料理を楽しみながら、両国のエンジニアの働き方、考え方などについて会話が弾みました。

意外かもしれませんが多くのロシア人はとても親日的です。シベリアでも、大きな街には日本語を教える大学があります。特にノボシは日本語能力試験の会場になる中核都市で、学習レベルの高さには驚かされます。

会食後、北海道企業からは「彼らはしっかりしたIT教育を受けている上に、日本語会話にも困らない。社員として採用することを本気で検討したい」との感想も聞かれました。

日本製の製造機械で精密機器を生産

翌11月15日は企業視察や面談の1日となりました。参加者の印象に強く残ったのは、電子機器製造のヴェガ・アブソリュートです。

ノボシ市内と隣町の2工場体制で、全従業員150人。決して大企業ではなく、豪華な設備を誇るわけでもありませんが、ロシア版GPSを使った位置情報付きデジタルタコメーター、IoTやスマートホーム用の各種センサーなど、約500種類の電子製品を生産しています。

ベガ・アブソリュート社ノボシ市内工場

製造品の種類が多い(ヴェガ・アブソリュート社)

品質を追い求めた結果、小さなケースや細かな金属部品まで可能な限り自社で作るのが特徴です。手作業が多いにもかかわらず、製品の出荷量は年間で100万個に達すると言います。

工場内を見学すると、世界各国から集めた生産機械に混じって、日本メーカーのロゴが入った機械も複数見えました。実際に、日本人がメンテナンスのため定期的にこの工場を訪れているとのこと。ヴェガ社は今も日本の某メーカーと商談中で、交渉がまとまり次第、製造機械を輸入する計画なのだそうです。

ベガ・アブソリュート社ノボシ市外工場

モノづくり現場を視察(ヴェガ・アブソリュート社)

経済活動の先駆けに

最終日の16日は、シベリア鉄道の中間地点とされるノボシビルスク駅、またソ連時代から続くノスタルジックな市場など市内各地を視察。夜に空港に移動して深夜便に搭乗し、仁川空港を経由して17日午後に新千歳空港に戻りました。

訪問団長を務めた新山イークラフトマン社長は、「この訪問から、北海道とノボシビルスクのIT企業間でビジネスが生まれようとしています。私たちが経済活動の先駆けとなって日ロの架け橋になれるよう、この機会を活かしていきたいです」と話しています。北海道経済産業局、札幌市などサポート側もそれぞれの手応えを感じた様子です。

2019年も何らかの形で、北海道とノボシビルスクのITビジネス交流が続くことになりそうです。

<前編はこちら>

北海道4社「シベリアのシリコンバレー」を行く【前編】

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私が書きました!

ビジネスの取材が好きなフリーライター。第二種情報処理技術者(現在の「基本情報技術者」)。1971年鳥取市出身、2010年から札幌市在住。今までに住んだことがあるのは大阪、京都、奈良、東京、ウラジオストク(ロシア)。取材ノートを電子化したくていろいろなペン入力端末を試しています。

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