「魚の気持ちを解き明かす」ことを目標としている先鋭的なベンチャー企業が札幌にあることをご存知でしょうか。バウリンガルの魚バージョン?いいえ、ちがいます。その企業は、これまでにない客観的な釣果データ取得を目指し、世界初のIoTルアーを開発しているんです。
今回は株式会社スマートルアー(以下、スマートルアー社)の代表・岡村さんと広報・高橋さんにインタビューし、前編では試作中の製品「スマートルアーα」(以下、スマートルアー)や開発の経緯についてお話を伺いました。
インタビュアー・撮影・構成:谷 翔悟 取材日:2019年2月12日 / 撮影場所:Beer Bar North Island
釣り人の感覚を拡張するIoTルアーが提示する「釣りを考える楽しさ」とは?
――本日はよろしくおねがいいたします。スマートルアーはセンサーを内蔵した世界初のIoTルアーだと伺っています。早速ですが、プロトタイプを見せてもらえますか?
岡村:はい、こちらです。
――おお!じゃあ、このルアーがあれば初心者でも魚を釣りまくれるんですね!
岡村:いやあ、そう言い切れるわけでもないんですよ。
――えっ…?
岡村:弊社で開発しているスマートルアーは、製品内に搭載されたセンサーの情報をスマートフォンアプリに記録してくれるルアーなんです。他のルアーと同じように使うだけで、水温や水の濁り、ルアーの動きや魚が針にかかったタイミングを記録することができます。
高橋:スマートルアーは地形や魚影が見えるようになるものではないし、なにもしなくても勝手に釣れるようにリードしてくれるルアーではないんですよ。IoTルアーを開発していると話すと「ルアーが自動で泳ぐんですか?」って聞かれるんですけどね(笑)。
岡村:例えば、今の釣りは「このルアーはこのタイプの魚が釣れる」といったルアー主体の考え方や、「この季節はこうすれば釣れる」などのエビデンスのない経験則が多いですよね。そういったセオリー先行の釣りをすると、もちろん釣れるときは釣れるんですが、釣れなくなったときに手詰まりになってしまいます。そういうときこそスマートルアーを使って、「じゃあ水温を調べてみよう」とか「濁りはどうなっているかな?」というように、自然環境を調べて自分で考察できるようにしたいんです。
高橋:スマートルアーでデータを取ることで、逆に経験則やセオリーを裏付けすることもできるとも考えています。やはり「マズメ(朝夕の薄暗い時間帯)は釣れる」などの一般的に広く知られていることには、きちんと理由があるはずですから。
――たしかに、なぜマズメが釣れるのかなどは考えたことがなかったですね。それに私自身、朝早く釣りに行って全く釣れなかったこともありました。では、スマートルアーはそういったときにヒントをくれるツールという感じなのでしょうか?
岡村:そうですね。誰でも簡単に釣れるようになるツールではなく、釣り人の感覚を拡張する装置というイメージです。竿の振動などの感覚で釣り人は水中の様子を知るわけですが、それよりも幅広い情報を得て、自動的に記録することができるのがスマートルアーなんです。
高橋:実際にアプリに溜まった自分の記録をみて、家や職場で次に行く釣りのことを考えられるというのもスマートルアーの楽しみかたのひとつですね。釣りをするひとは、車に乗っているときも地図アプリを見ているときも、ついつい釣りのことを考えて妄想していますから(笑)。その妄想にスマートルアーで「記録」をプラスしてあげると、論拠のある妄想ができて、新しい釣りのスタイルにつながるかもしれないと考えています。
――なるほど、確かにそれは楽しそうです!
岡村:当たり前のようですが、魚と人間はまったく違う世界を生きているんですよね。例えば、魚が感じているものの多くは、人間が感じられないものなんですよ。魚は水中の溶存酸素量やごく僅かな水温変化に敏感だったり、側線という感覚器で遠くの音をキャッチしたりしています。現在のプロトタイプではそのすべてを情報化できるわけではありませんが、なるべく多くの繊細な環境変数を、センサーで体系的に記録しようというのがスマートルアー社のコンセプトです。弊社ではそれを「魚の気持ちを解き明かす」と表現しています。
高橋:そもそもスマートルアー社が取り組んでいるセンサーで水中のデータを取るということについては、「釣りを便利にする道具を作った」というより「科学的な研究手法を釣りに持ち込んだ」と言うほうが近いと考えています。我々は、釣りをアップデートしているというよりはむしろ、科学をアップデートしているんじゃないかなと。
岡村:ただ、実際に科学として研究が可能になるのはビッグデータと呼べるほどデータが集まってからの話ですね。それよりもまず釣り人にとっては、何も考えずにスマートルアーで釣りをするだけで自分の釣果データの傾向がわかるというのが大きなメリットだと思います。「今回は底のほうばかり狙っていたから、もうちょっと中層にルアーを通してみよう」というように、自分の釣りスタイルを見つめなおすための手がかりが得られます。それらの情報を通じて、釣り人の「自分で考えて釣りをする楽しさ」を支援したいと考えています。
高橋:何も考えずに記録ができる、というのはとても重要ですね。釣り人は、湖や川に着いたらすぐにルアーを投げたくなっちゃいますから(笑)。釣りをしている間はきっちりメモをとれるほど冷静ではいられないですもんね!
勘や経験ではない、人類史上初の客観的な釣果データを。スマートルアー開発のストーリー
――でも、そもそもなぜセンサー付きのルアーを開発しようと考えたんですか?
高橋:それには岡村のあるエピソードが深く関わっていまして…。
岡村:数年前に札幌に転勤してきて、その年の夏から釣りに行くようになったんです。5000円くらいの本当に安い竿とリールを使っていたんですが、それでも面白いように魚が釣れて、一気にハマりました。ただ、その年の11月に入ってから…。
岡村:4ヶ月間、一回も釣れないどころかアタリすらなかったんです。
アタリ…魚がルアーや餌をつついたり、くわえたりすること
――そんなに長い間!?かなり苦労されましたね。
岡村:とにかく、雑誌やブログであらゆる情報を集めましたよ。それを頼りに「今日は川底にルアーを通そう」とか、「ルアーのサイズや、時間帯を変えてみよう」とか、真冬の北海道で毎週いろいろ試していたんですが、まったくダメ。でもその4ヶ月間で、気づいたことがありました。
岡村:それは、現在の釣りに関する情報は勘と経験に基づくものがほとんどで、科学的に測定されて蓄積・運用されているデータが少ないということ。釣りの道具はこの100年でかなり進歩していますが、釣りに関する情報については主観的なもの、エビデンスのないものが多いんです。釣りは自然から手がかりを集めて作戦を立てるゲームなのに、その手がかりに関する部分をデータで解説しているものがあまりにも少ない。そういう意味では、「釣果の客観的データ」は人類史上に存在しないんです。じゃあ、それを集めるためにはどうしたらいいんだ、と考えたところがスマートルアー開発のきっかけですね。
――たしかに釣りの記録と言っても、釣り場ではおおまかな場所・時間帯とルアーくらいしかメモしないですよね。あとから写真や記憶で振り返る場合も多いです。
高橋:スマートルアーは加速度センサーでルアーの動きを記録できるんですが、これも今までにないデータだと思います。「水面スレスレにルアーを泳がせていたら釣れた」と記憶していても実際は想像より深く潜っていた、ということはよくありますし、水面を跳ねさせたり、底をズルズルと引くルアーでない限りは視覚・触覚でのフィードバックも得られません。今まで感覚でとらえていた世界を、客観的データできっちりと可視化できるのは大きいですね。
岡村:「釣りと記録」について弊社でユーザーヒアリングをしたんですが、皆さん工夫と苦労をして記録されているんですよね。Google Mapsの座標にピンを刺して、釣れたときのルアーや魚種・サイズをメモしたり、金魚の水槽で使うような温度計を改造して遠く・深くの水場まで測れるようにしたり。紙やスマートフォンのメモで記録をつけている人は、釣ったあとの興奮でついつい書き忘れてしまう項目なんかもあるわけです。そういったところで体系的なデータを溜められることが重要だと強く感じましたね。
高橋:そういったスマートルアーの記録を使って、釣りという行為自体がもっと新しい、知性的なものになればいいですね。魚や釣り場のことを知れば知るほど、釣りが面白く、新鮮に感じられます。ベテランから初心者まで様々な方にスマートルアーを活用してもらって、弊社の想像を超えるいろんな楽しみ方をしてほしいと思います。
(後編へ続く)
先鋭的なプロダクトを開発している会社でありながら、語り口はとてもやわらかで取材は終始、雰囲気良く行われました。お二人が心から釣りを愛していることが感じられ、製品開発の今後が一層気になるインタビューでした。後編では、”釣りバカ集団”であるスマートルアー社が札幌で起業をした理由、オウンドメディア「スマルア技研」について語っていただきます。
”釣りバカ会社”「スマートルアー」はなぜ札幌で働くのか、オウンドメディアの狙いは?代表・広報にインタビュー(後編)
この記事をシェアする
同じカテゴリの新着記事
北海道ITまとめ
-
IT企業まとめ
-
スペースまとめ
ジョブボード
- 社名
- 募集職種
- 内容
- 給与・待遇
- 詳細
- 掲載終了日
ジョブボードに掲載したい企業募集中!詳しくはこちらより