北海道のITに会いに行こう!

ホテルの適正価格をAIで――山本雅人北海道大学教授に聞く【前編】

Pocket

1カ月後のこの日なら、このホテルの妥当な宿泊料はいくら?――その答えを自動で出すAIシステムの開発が、今札幌で着々と進んでいます。産学連携で開発にあたっているのがゲストハウス運営のフルコミッション(山崎明信社長)とソフトウエア開発のテクノフェイス(石田崇社長)、そして北海道大学大学院情報科学研究科の山本雅人教授です。

宿泊施設の業務効率アップにつながりそうなシステムですが、どんな経緯で開発が始まり、今後何をめざすのでしょうか。山本教授に、AIをめぐる最近の状況変化も含めてお話をうかがいました。

インタビュアー・構成:吉村慎司 撮影:赤沼俊幸 取材日:2018年10月5日

――宿泊施設向けに、部屋の適性価格をAIで判断するシステムを開発しているそうですね。

山本: はい、まず宿泊施設ごとに、例えば過去数年間にいついくらでどんな部屋が売れたか、というようなデータを私たちにご提供いただきます。そして私たちがそのデータを使ってAIで分析をして、未来の需要を予測して、それに基づいて今いくらで部屋を売ればもっとも利益が大きくなるかを示す、という仕組みです。

本格的に開発が始まったのが今年の夏で、特に8月以降スピードアップしてやって来ました。システムとしてはまだ完成してませんが、おそらく年内にシステムが整うのではと思います。

まずフルコミッションのTentoTenの施設で使い始めてもらっていて、またほかのホテル・施設からもデータの提供を続々と申し出ていただいているところです。スタート時点でおよそ20から30ぐらいの施設が、何らかの形で参加してもらえそうです。

「人の力」では損をすることも

――今もホテル予約サイトなどを見ると、部屋の価格はたびたび変わっているようです。すでにAIのようなものが使われているのではないのでしょうか。

山本:私がお聞きしている範囲で言えば、販売担当の社員がいて、ホテルによっては専任者をつくってネットに張り付かせている施設も多いようです。例えば1週間後のこの日が10部屋売れ残っているとすると、担当者が何をするかというと、近隣のホテルの値段をチェックするんです。

楽天、じゃらんといった予約サイトで検索して自分のところと周辺の価格を比べて、周辺よりちょっと安くする。そうすると価格順で表示されたときに上位に来て、予約が入りやすくなります。これを人の手でやる。最近これが一部で自動化されつつあって、そこに今AIが入っていこうとしています。

――AIがやれば担当者が不要になって人件費が浮く、と。

山本:それだけではありません。人がやることで価格変更の判断が遅れると、損につながる場合があります。例えば嵐のコンサートの札幌開催が決まったとしましょう。その情報が流れた瞬間に札幌中のホテル価格が一斉に上がるんですよ。これに乗り遅れると、黙ってても1万円でも2万円でも部屋が売れるのに、普段通りの6000円のままで出ているわけですから、目ざとい嵐ファンがあっという間に6000円で買ってしまう(笑)。プラスのニュースが入った瞬間に自動で値段を上げなければ損してしまうんです。これは人間の力ではなかなかやり切れない。

もちろんAIでも難しい場合はあって、例えば地震が起こったら価格をどうすべきなのか。具体的に何円がいいのか、これはAIに学習させるデータが少なすぎるので簡単ではありませんが、少なくともマイナスの要素かプラスの要素かぐらいはAIもわかるので、ある程度は自動化させようとしています。

例えば、何か起こったときにとりあえず価格を上げてみるということができます。上げても売れたらもう少し上げてみる、というのも自動でできる。こんな試行がこのところ少しずつ始まってきてるんですよ。

――分析の元となるデータが重要ですね。ただ、多くのホテルはそれぞれ独自のシステムで動いていて、データの扱い方・貯め方もいろいろかと思います。山本先生が求めるデータはどのホテルからも容易に得られるのでしょうか。

山本:確かにホテル・宿泊施設でそれぞれシステムは複雑ですが、最近だんだん統一化されてきているんです。なぜかというと、今は楽天とかじゃらんとか外部に部屋を売り出している施設がほとんどなんですね。そして普通は複数のサイトに出しますから、これを一括管理するツールが何種類か普及するようになりました。

今はほとんどの施設がこうしたツールを使って、どの部屋がどのサイトで、いついくらで売れたかというデータを持つようになっています。そしてこのデータの仕様が実はかなり共通している。

ですから事実上、施設側は私たちが求めるデータを、いつも使っているツールからダウンロードできるようになっているんです。実際には私たちに提供するにあたって差し障りのない形、例えば宿泊者名情報が消えているようなデータにして、ご提供いただくことになります。

導入施設、まず3~4割目標

――どんなホテル・宿泊施設が導入に向いているのでしょう。

山本:当初はある程度の規模は必要ですね。全部で数室とか10室ぐらいの施設が導入しても、データのボリューム不足とかでなかなか難しかったりするので、AIで需要予測をする効果がありそうという意味で、ターゲットになってくるのは中規模以上の施設だと思います。札幌全体で2万5千室ぐらいある中で、1万室ぐらいを対象とするイメージですね。このうちのまず3割から4割を、早い段階で押さえたいですね。

――このプロジェクトで北大、フルコミッション、テクノフェイスはどんな役割分担ですか

山本:宿泊施設との窓口になるのがフルコミッションで、山崎社長がいま一生懸命あちこちに営業されています。テクノフェイスはソフトウェアの開発です。例えば、ホテルの既存システムの中に、AIによる推奨価格を表示させる仕組みを開発するといったイメージになります。宿泊施設から見ればフルコミッションにデータを出すという格好になるでしょう。私たちはそれを分析させていただいて、過去のデータから機械学習をしていく。

――フルコミッションとは長いお付き合いなのですか。

山本:私がもともとお付き合いがあったのはテクノフェイスで、そこを通してフルコミッションを紹介されました。背景を言えば、私の方で1、2年ほど前から、小売りやサービス業の需要予測の話に関わるようになっていたんです。例えばコンビニエンスストアで天気や時間帯で需要がどう変化するとかいろいろな議論があるのですが、現実に本格的なデータをご提供いただけるような機会はなかなかありません。

そんなことを考えているとき、山崎社長が宿泊予約へのAI活用を考えているということで、今年に入ってからだったと思いますけどテクノフェイスから私に打診が来ました。それで、これは技術的にもできるんじゃないですか、という話で動き出しました。

――部屋の料金設定にAIを取り入れるのは宿泊業界で初めてですか。

山本:いえ、先行している競合はあります。似たことをすでにやっているんですけどそちらは費用が高いんですよ。導入時の初期費用が100万円単位でかかって、その後も1室あたり月額いくらとかなので施設さんの負担が大きい。彼らは主に首都圏の施設に営業をかけています。

一方、私たちは北海道の宿泊施設を活性化するのが目的なので、中規模クラスの北海道の施設にも負担が大きくならないようにと考えており、このあたりの考え方は山崎社長にもしっかりお伝えしました。施設側の負担を抑えることを重視したいので、施設がこれを導入して利益を上げたらその利益の何パーセントかをいただく、というビジネスモデルになると思いますね。そこが競合と決定的に違う点かなと思いますね。

AIは「信用されない」

――宿泊施設が両方を見比べたとき、いま開発しているシステムは競合よりどれぐらい安くなるのでしょうか。

山本:感覚的には3分の1から4分の1ぐらいになるはずです。詳細はまだ調整中ですけど、競合の方は明らかに高い。私たちの方は、AI開発の部分を北海道大学でやっているので、一般的な開発コストに比べたらものすごく安く上がりますから、それでサービスも安く提供できるんです。もちろん研究予算はつけていただいていますけど、それでも一般の会社さんが開発するのに比べれば10分の1以下という水準です。

――費用負担が軽ければ、AIはホテル側に歓迎されそうですか。

山本:現実には微妙な問題もあります。完全に自動にすると、「知らない間に部屋の価格をシステムに変えられている」ことになるんです。これは結構ハードルが高くて、ホテルの担当者が嫌がるんですよ。だからAIからの価格推奨があっても、担当者がそれを承認してからじゃないと反映しないとか、そんなイメージを持っている方がたくさんいて、そうなると結局自動じゃないんですよね。

でも今はまだ使う側に抵抗があるので、AIが出力する価格で変えちゃうんじゃなくて推奨価格を出す。AIはこの価格だと言ってますよというのを出して、判断は人間にさせる方式を試用期間として考えています。

――そこは人間のプライドの問題ですか。

山本:一言で言えば信用の問題です。AIのこと、信用しない人が多いんですよ(笑)。例えば、9月の3連休の最終日は翌日から仕事だから宿泊客が少ない、と普通考えるところに、なぜかAIがこの日客が多そうだと言ったらどうか。暦の関係とか天気の関係とかからAIが判断して、人間の感覚では普段の6000円のままかなと思うところで、8000円で大丈夫だと推奨することがありうる。そうすると人間としては理由がわからないから信用おけないじゃないですか。

だからシステム導入の最初の段階として、AIの判断を信用するかしないかを担当者に任せる。AIが8000円と言うのを信用せずに6000円で予約サイトに出してみると瞬く間に売れちゃって、あれ?8000円でもいけたのかな?という気になってくる。また同じような状況でAIが8000円と言ってて、その通りに8000円で出してみたら売れたと、こんなことが続けば信用が出てくるじゃないですか。そうなってくると次の段階に進んで、半自動みたいな仕組みが考えられます。

例えばAIの推奨価格そのままじゃなくても、一定程度近づけた価格に自動で変えるとか。そういうふうないろいろなオプションをつけながら徐々に信頼を勝ち取ろうと考えてるんです。そんなふうにやっていって、利益が上がったり、予約状況が思ったより改善されたりなどの実感があれば自然と信用してもらえるようになるので、この状態を目指しています。

<実業界への応用が加速するAI。後編では「ブームの裏側」も語っていただきます。後編をご覧ください>

AIブームで企業に焦り?――山本雅人北海道大学教授に聞く【後編】

この記事を書いた人

吉村慎司
吉村慎司ライター
ビジネスの取材が好きなフリーライター。第二種情報処理技術者(現在の「基本情報技術者」)。1971年鳥取市出身、2010年から札幌市在住。今までに住んだことがあるのは大阪、京都、奈良、東京、ウラジオストク(ロシア)。取材ノートを電子化したくていろいろなペン入力端末を試しています。
Pocket