感性のシンギュラリティが到来!?「感性に挑むAI」 – Kita Tech2018レポート

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感性のシンギュラリティが到来!?「感性に挑むAI」 – Kita Tech2018レポート

2018年11月2日(金)、ジャスマックプラザで開催された「Kita-Tech 2018」(キタテック2018)に行って取材をしてきました!

一年に一度開催される「Kita-Tech 2018」は、北海道のIT企業が集結し、与えられたテーマに沿って技術を発表する交流会です。

以下では、北海道大学大学院情報科学研究科の発表をお伝えしていきます!

感性に挑むAI(北海道大学大学院情報科学研究科:山下倫央 准教授)

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

北海道大学の山下准教授は、「感性に挑むAI技術」をテーマに研究発表をしてくれました。

Kita-tech2018 強いAIと弱いAI 北海道大学 山下倫央 

今回のKita-tech2018では、「弱いAI」に関心を寄せる人が多くて印象的でした。

現在のAIは「感性」や「認知能力」を人間に近づけることはできません。これを一般的に「弱いAI」といいます。「弱い」と聞くと頼りない印象を抱いてしまうかもしれませんが、実は「弱いAI」だからこそ実用的な意味を持っているのです。

AIを技術的に利用する場合、最適化に最適化を重ねることで、人間よりもすぐれた計算能力を付与します。それにより、わたしたち人間がしばしば引き起こしてしまう不注意や判断ミス、つまり「ヒューマンエラー」の欠点を「最適化されたAI」でカバーするわけです。

人間は数値化の困難な抽象的で感覚的な世界のなかで生きています。例えば、「きれい」「かわいい」「美しい」「ダサい」などといった価値判断などがその典型です。それに対しAIは、最適化を通じて「人間から遠ざけていく」ものとみなされます。客観的な根拠付けによってのみ成立する判断規範。それが「弱いAI」なのです。

しかし山下准教授は、「弱いAI」で人間の感性へアプローチかけようと試みました。「感性に挑むAI」は、AIから抽象的かつ感覚的な「人間らしい要素」を排除するのではなく、むしろAIに「人間らしい要素」を付与することを目的としています。

では、どうすればAIを人間の感性に近づけることができるのでしょう? 「心」や「感情」や「意識」は目に見えるものではありません。果たしてAIを人間に近づけることはできるのでしょうか。

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

「わたしは人間の感性に訴えて喜ばせるようなAIをつくりたいのです」と山下准教授は研究の信念を打ち明けます。

ファッション画像を認識するAI

Kita-tech2018 感性に挑むAI ファッション誌の画像例

いかにも理系人間には縁のなさそうな女性ファッションの世界……果たしてAIにはどうみえる?

「感性に挑むAI」の研究を進めるため、山下准教授は企業に協力をあおぎ、AIでファッション画像を認識させるプロジェクトを立ち上げました。なぜファッションなのか? ファッションはまさに、客観化の難しい抽象的な「感性」に訴える世界だからです。「主役級の甘目柄」「こっくり甘く」「大人ガーリー」……このような非常に絶妙な表現が目白押しですが、不思議なもので、ファッション業界で働く人々とファッション誌の読者は、この「感性」を受けいれることができています。

山下准教授が目指したのは、AIが衣服を認識し、ファッションセンスを客観的・定量的に評価することで、たとえばデートにふさわしい着こなしを提案したり、逆に、デートに着ていくべきではない服を注意するような機能の実装でした。

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

「なにを着ていくべきなのか?」これは、ファッションに疎い人間には悩ましい問題です

それを実現するために肝心なのは、AIに学習させるファッション画像に「かわいい」「上品」「夏らしい」といった「感性」をタグ付けすること。このタグ分けは、ファッションの専門学校生に手伝ってもらいました。「自分たちは服を服としかみてないけれども、ファッションに携わる人たちはもっと繊細な感覚で細かく見分けることができることに驚いた」と山下准教授は言います。画像のタグ付けは、概して次のようになります。

①まずは「外観」できっちり区別できるものとして「服のカテゴリ」を定義します。スカート、ワンピースなどがそれにあたります。

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

②かわいい・きれい・かっこいいなどの感性的な評価軸を「段階」として表現する

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

あとはAIにタグ付け画像を「学習」させていきます。すると次第に、画像認識力が向上していきました。AIのファッション画像の認識テストを実施すると、その結果は、ファッションの専門家からみても精度が高いとの評価を受けることができました。なんとその正解率は、約7割だったそうです。

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

「自分なんかより、いまではAIのほうがファッションセンスがあります」との山下准教授の冗談に、会場はどっと笑いが。

とはいえ、主観的・印象的な評価と客観的(形状)評価がより複雑に組み合わさると、AIと人間とのあいだには、評価の乖離が生じやすくなってしまうようです。しばしば、女性のファッションで「甘めコーデ」なんて言葉が使われます。

たとえばトレンチコートは専門家的には「甘くない」という評価なのですが、AIはこれを「甘い」と判断してしまいました。なぜならコートが「ピンク色」だったからです。「かたち」で評価するのか、「色」なのか。AIはまだ、この部分で「迷い」が生じているようです。今後の課題はまさにここだと山下准教授は言います。AIの学習それ自体は順調にすすんでいるので、あとはもっとたくさんのデータを集めていき、精度を高めていくつもりとのことです。

俳句をつくるAI

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

さて、「感性に挑むAI」の次なるテーマは「俳句をつくるAI」です。突如、山下准教授は、わたしたちにとあるスライドをみせて会場にこう尋ねました。

「どれがAIの作った俳句か、わかりますか?」

Kita-tech2018 AIのつくった俳句画像 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

このなかには確実にAIのつくった俳句がまぎれています。みなさんにはわかりますか!?

みたところ、どの俳句にも味わいがあり、一見するだけではまったく区別がつきません。じつはこの「俳句をつくるAI」は、今年 (2018) の2月に『スゴ技』という番組で取り上げられてもらい、俳人とも対決をしたこともあるほど優れたAIなのです。小林一茶や正岡子規、高浜虚子などの有名な俳人の句をAIに学習させ、これまで、のべ2000万句ほど生成したといいます。

仮に「一分に一句」つくったとしても、2000万句となれば39年かかる計算ですから、驚くべき生成能力です。たしかに山下教授が言うように、すでにこの時点で、「俳句をつくるAI」はとうに人間を超えていることになります。

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

俳句という「感性」の極致に挑むAI。果たしてその成果は?

しかしこのAIが優れているのは、単に生成速度だけではありません。「写真にあった俳句をつくる」「しりとり形式で俳句をつくる」という能力にかけても、人間と同等か、あるいはそれ以上のポテンシャルを発揮するのです。このような驚異的なAIが誕生したのは、「人間らしさ」を軸に俳句を選定するように学習させたからです。

テレビ番組では、審査員の投票のすえに負けてしまいましたが、人間がつくった俳句に140点、AIの俳句には130点というかなりの大接戦でした。しかも、作品次第では、生身の俳人の作品よりも高い評価をうけたAI俳句もあるとのこと。

ここで、冒頭の「答え合わせ」をさせていただきたいと思います。AIのつくった俳句、みなさんは区別できましたか?

Kita-tech2018 俳句の審査結果 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

ちなみに筆者は、「かなしみの片手ひらいて渡り鳥」が好きでした。まさかこれがAIの俳句とは……。いつかAIのつくった小説に感動させられてしまう時代が来たりして……。

「局所的には俳句のシンギュラリティが起きている」

山下准教授の言葉に、会場は息を呑みます。事実わたしたちは、冒頭で示された俳人の作品とAIの俳句とを区別できなかったのですから、恐るべき説得力です。今後は俳句だけではなく、文章生成そのもの能力を高めて、キャッチコピーや説明文の生成に応用していくとのことです。「俳句をつくるAI」の研究は、AIが日々刻々と人間の感性を「学習」し、着実に「理解」し始めていることをわたしたちに証明してくれました。

Kita-tech2018 感性に挑むAI 北海道大学 山下倫央 

素晴らしい発表をしてくれた山下倫央准教授に拍手!

おわりに

本記事では北海道大学大学院情報科学研究科の山下准教授による「感性に挑むAI」をお届けしました!

個人的に、「俳句をつくるAI」は、じつに驚くべき発見と感動に満ちた研究でした。近年、人工知能に「小説」を書かせる試みが海外で行われていましたが、そう遠くない未来、わたしたちはほんとうに「AI作家」や「AI音楽家」の作品を手に取ることができるかもしれません。「感性のシンギュラリティ」ともいえる新しい時代の到来を予感させてくれます。

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私が書きました!

大学院在学中、「文章はどこまで人を楽しませられるのか?」という関心があり、ライター活動をはじめる。地元の札幌(もとい北海道)を自分の文章で盛り上げることはできないものかと、現在いろいろと模索中。趣味は作品批評。

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