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AIブームで企業に焦り?――山本雅人北海道大学教授に聞く【後編】

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前編に続き、北海道大学大学院情報科学研究科の山本雅人教授インタビューをお届けします。前編ではフルコミッション(山崎明信社長)、テクノフェイス(石田崇社長)と共同で開発している宿泊価格推奨のAIシステムについてあらましをうかがいましたが、後編ではAI研究を取り巻く環境の変化についても語っていただきました。

インタビュアー・構成:吉村慎司 撮影:赤沼俊幸 取材日:2018年10月5日

――今回の宿泊予約システムもそうですが、AIの応用先は実に様々ですね。

山本:はい、応用分野にはびっくりするような話も多いです。私のところでやっていることでは、新聞でも取り上げてもらいましたけど札幌市円山動物園で動物の体調管理などを目的とした見守りをするプロジェクトがあります。

監視カメラのような形でチンパンジーとかホッキョクグマの動きを追いかけて、ホッキョクグマがある時間に何をしてたとか1日記録を取って、それを毎日レポートの形で提出して飼育員の方に提供する。これが毎日たまってきますから、今日はなんだか様子がおかしい、というときにそろそろ発情期なんじゃないかと推測したりだとか、そういったことにAIを役立てようという動きです。

それから、これも大きく報道してもらいましたがカーリングへの応用があります。カーリングは碁や将棋と同じく交互にプレーするので自分がこうすれば相手はこう来る、という先読みをしていく。だけど必ず狙ったところにストーンが行くわけじゃないので、ブレたときにどんなことが起こるかというのを物理シミュレーションをして、シミュレーションの結果をベースに1手先、2手先の結果を見て自分にとって今一番いい戦略は何なのかというようなことをAIで割り出します。

さらに別の、新しい話としては、まだ詳しく言えないんですけど手話の自動翻訳というのも今進めています。これはもうすぐプレスリリースされると思います。

――山本先生は学外とのコラボレーションに積極的ですが、意識的にそうされているのですか。

山本:これは私が助手、今でいう助教だったころや准教授だったときに、教授の先生が結構学外との共同研究をやっていたという背景もあります。そんな流れを引き継いで、教授になってからもあちこちの企業さんと一緒に開発をさせていただいているという感じです。

ここ2年で環境激変

――開発案件は企業が持ってきますか?それとも山本先生の方から持ちかける?

山本:企業さんから相談いただくことは多いですね。私から企業さんにこんなことをさせてほしいとお願いすることは滅多にないです。ただ、企業の方といろいろなお話をする中で、こんなことが課題になっているという話題になったときに、それやりたいですね、と言うことはありますけど。こちらから一方的に持ち込み企画みたいな形でお願いすることはほとんどありません。

例外としては、外部から研究費を得るための申請をする際に、コンソーシアム先を見つけて、一緒にこんな研究をやれませんかとご相談するときですね。でも最近は企業さんからの案件だけで手一杯なところもあって、なかなか今私たちから提案する余裕がないというか。

――研究室はどんな体制ですか。

山本:私以外に准教授が1人と博士課程の学生2人、さらに修士が13人、学部が4人という体制でやっています。博士課程の学生になるともう一人前の研究者ですから、これお願いといったらかなりいろいろやってもらえる状況にあります。

修士にもしっかりした学生がいて、ときには共同研究の一部分を担当してもらうこともあります。私は全体の舵取り、管理です。だから最近はあまり自分でプログラムを書く時間がないんですよ(笑)。

――引っ張りだこですね。こんな状況になったのはいつからですか。

山本:ここ2年と言っていいと思います。環境がとてつもなく変わりました。そもそもAIという分野そのものは私が学生のころからあります。企業からの共同研究の問い合わせというのもずっと以前からあるにはあって、でもせいぜい年に2、3件という水準だったんです。それが直近では20件ぐらいあるかもしれませんね。

すべて受けられるわけではなかったり、いいですよと返事しても頓挫してしまったりいろいろあるんですけど相談自体がすごく増えています。AIブームを感じます。

最近AIという文字を見ない日はないぐらいですよね。たぶんマスコミ記事を検索してみたらこの2年ぐらいでとんでもなく増えていると思います。このブームは何から来たのかなと考えると、将棋・囲碁の世界でAIがどうこうって言われたあたりからかなと思うんですよね。

そのときはAIそのものより、将棋でコンピュータのすごく強いソフトができたんだねというニュースだったのが、それがいろいろな分野で応用できるというのが徐々に徐々に浸透してきたんじゃないかと思います。

大学はもっと応用研究をすべきか

――専門の研究者として、今のブームをどう見ていますか。

山本:率直に言うと、多くの企業さんが「とにかくAIをやらなきゃ」ということで急に焦りだしているように思います。以前はAIとかビッグデータが話題にはなっても、企業がお金を出してまで大学とコラボしようという流れにはならなかったんですけど、なぜか今は企業がお金を出す状況になっている。景気の関係があるのかもしれませんけど、なぜかみなさん焦ってるんです。

私が聞いた話では、これといった課題があるわけでもないのに社長からAIをやれって漠然と命令が出ているとかで(笑)。これに困っているからAIを適用しよう、じゃないんですよ。おそらくそれぐらい企業の方々、中小企業の社長さんたちが普段見る雑誌などが頻繁にAIを扱うようになって、「時代に乗り遅れるとマズイぞ」っていう発想になっているんじゃないかなと感じています。

――なるほど内実には問題があるかもしれません。ただ近年は大学の研究成果を社会に応用していくことがより求められていて、AIはその旗手でもあります。研究者の内向き志向も長く批判されてきました。

山本:確かに最近は、大学の使命として社会貢献、産学連携をやらなきゃいけないっていう状況になってきているんで、少しずつ研究者の意識が変わってきているとは思います。でも、どうしても社会応用に向かない研究テーマもたくさんありますよね。数学の研究者が応用でどこかの企業と共同研究するというのは厳しい。

そういう意味では、私たちがやってきた内容と、今のAIブームに象徴される社会の要請がたまたまマッチしているので、言わばたまたま共同研究をしてて、産学連携をしているとも考えられます。また、私たちが応用研究を比較的志向しているから共同研究が多いとも言えます。このブームが去ったときにAIの研究環境がどうなるかもわからないことです。

私は、大学の全員が応用研究するというのは間違っている方向だと思うんです。基礎研究をするグループと社会応用していくグループがあっていいと思うし、そういうバリエーションがないと組織としては潰れてしまう。だから基礎研究をしっかりやっている人に対して「もっと産学連携に力を入れるべき」という意識は私はないです。役割分担だと思いますね。

めざすのは「みんながWin-Win」

――少なくとも応用研究のグループは社会とつながっていく。このグループの研究者にとっては、応用の成果を出すためにも、いろいろな企業・団体と知り合うことが大切でしょう。研究者と企業が出会う場にはどんなものがありますか。

山本:技術やビジネスの展示会がいろいろとあってそこに出展するパターンもあるんですが、展示会というのは一過性になりがちで、どうしても挨拶で終わってしまうことが多いんですよね。一方、例えばいまテクノフェイスの石田社長が代表理事をしている「さっぽろイノベーションラボ」というのが企業の組織としてあって、そこに大学の研究者もメンバーとして何人か入っています。「SAPPORO AI LAB」も同様です。

そういう組織の中でいろんなプロジェクトを主導して、この内容ならこことここがやったらいいんじゃないかとか、その組織の中で割り振られたり、あとは先生方とつないでくれたりする。展示会と比べるとこちらの方が、企業の人たちと具体的なお話をする機会が多くなります。ちなみに、先ほどの動物園の話と手話の話はSAPPORO AI LABの中で進んだ話です。

――宿泊価格システムの話に戻りますと、これは今おっしゃった組織からではなく、個別のお話でしたね。山本先生は需要予測の研究にもタッチしていたということでしたが、観光業界とも接点があったのでしょうか。

山本:実を言うと、私はもともと宿泊施設の方々とお付き合いがあったんです。観光情報学会という学会があるんですけど、それは私の恩師が立ち上げた学会で、今は私その副会長をやっています。観光業に対して情報技術をどうやって使うかということを研究する学会です。

そこで10数年前から、宿泊施設が予約サイトに高い手数料を支払う現状はマズいですよねという議論があって、施設の公式サイトの重要性を説いたり、国際的にやっているいくつ星みたいな格付けを日本にも導入すべきじゃないかとか提言したり、そんな活動をしてきました。ただし、格付けというのは日本にとてつもない拒否反応があるので、自己評価を開示する、という枠組みで取り組んできました。

この学会を通して知り合った宿泊施設の方々がいて、中には札幌の主要ホテルの支配人クラスをほとんど知っているというようなブレーン的な人もいらっしゃるんですけど、フルコミッションさんのご提案について検討するときにはこの方にも相談しました。結論としては、ある一企業だけが儲かるような仕組みじゃなくて、みんながWin-Winになるような、宿泊施設にとってメリットがあり、仕組みを運営する企業もそれなりに儲かってという仕組みをめざすということです。

運営側がただ搾取してホテル側はただコストが増えた、みたいなのは絶対に避けたい。たくさんの施設にご参加いただけるように、頑張っていきたいと思います。

(前編はこちらです。あわせてご覧ください)

ホテルの適正価格をAIで――山本雅人北海道大学教授に聞く【前編】

この記事を書いた人

吉村慎司
吉村慎司ライター
ビジネスの取材が好きなフリーライター。第二種情報処理技術者(現在の「基本情報技術者」)。1971年鳥取市出身、2010年から札幌市在住。今までに住んだことがあるのは大阪、京都、奈良、東京、ウラジオストク(ロシア)。取材ノートを電子化したくていろいろなペン入力端末を試しています。
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